ライフ

伊吹有喜さん、初の新聞小説『娘が巣立つ朝』についてインタビュー「50代って『老人の若葉マーク』。元気なんだか年寄りなんだかわからない」

伊吹有喜さん/『娘が巣立つ朝』/

『娘が巣立つ朝』の著者・伊吹有喜さんにインタビュー

【著者インタビュー】伊吹有喜さん/『娘が巣立つ朝』/文藝春秋/1980円

【本の内容】
 高梨健一と智子の間に生まれた一人娘・真奈(26才)が婚約者の渡辺優吾を実家に連れてきた。智子は夫に思う。《昔は穏やかでユーモアがある人だったが、最近は常に不機嫌で、ため息をつくことが多い》。健一は役職定年を控え、思う。《自分の人生はいつも夢を描くばかり。何も果たせていない》。真奈は将来設計について話し合ってこなかった婚約者との関係に思う。《結局、父の質問に対して、今の自分たちは何一つ明確な答えを出せなかった》。癖の強い優吾の両親なども加わって、高梨家の3人はそれぞれに人生を見つめ直し、その先に選ぶ未来は──ハラハラドキドキ、悲喜こもごもの人生賛歌。

人生で愛とお金が最も ぶつかる瞬間が結婚では

『娘が巣立つ朝』は伊吹さんにとって初めての新聞小説で、新潟日報ほか、いくつもの新聞に掲載された。

「私、小さいころから新聞小説がとても好きで、ずっと追いかけてきました。新聞小説の良さって、毎日毎日、続きが気になって仕方がないところだと思うので、昔の自分の、毎日の配達が待ち遠しい気持ちを思い出して、あらゆる世代の人が気になって、なおかつなかなか口に出しづらい、ハラハラドキドキすることはなんだろうと考えて、浮かんだのが愛とお金と健康の3つです。

 健康は、昔の私のような若い読者はあまり関心がなさそう。そうすると残るのは愛とお金で、人生で愛とお金が最もぶつかる瞬間が結婚です。愛は照れくさくてなかなか口にできないけど、口にしないと、以心伝心で結婚はできません(笑い)。結婚式や披露宴、その後の新生活も、言葉にしないと何も決まらない。ということで、愛とお金を車の両輪に、人はなぜ死が二人を分かつことがわかっていても絆を求めてしまうのか、ということを書こうと思いました」

 小説には三人の視点人物がいる。高梨家の健一と智子の夫婦、一人娘の真奈で、真奈の恋人の優吾が結婚の申し込みに東京都多摩市の高梨家を訪ねるところから、智子、健一、真奈と視点を移しながら小説は展開していく。

 この視点の移動が効いている。なかなか口にしづらい本音や真意の伝わらなさが浮き彫りになるのだ。

「三人視点というのは実は連載小説では使いづらいんですけど、この作品に関しては、高梨家の三人にはたがいの気持ちがわからず、読者は神の視点ですべてわかるので採用しました。『健一、それはやめとけ』とか『真奈ちゃん、がんばれ』とか、親戚や友だちみたいな気持ちで応援していただけるんじゃないかと。

 ザ・ドリフターズの『8時だョ!全員集合』の公開収録で、危険が迫るとお客さんがつい『志村、後ろ!』って言っちゃうっていう、あの感じが頭にありました。新聞連載で三人視点は確かに難しいんだけど、『彼方の友へ』の雑誌連載で一度経験していることもあり、たぶんできると思ったし、結果としてとてもいい形になったと思います」

関連キーワード

関連記事

トピックス

史上初の女性総理大臣に就任する高市早苗氏(撮影/JMPA)
高市総裁取材前「支持率下げてやる」発言騒動 報道現場からは「背筋がゾッとした」「ネット配信中だと周囲に配慮できなかったのか」日テレ対応への不満も
NEWSポストセブン
沖縄県那覇市の「未成年バー」で
《震える手に泳ぐ視線…未成年衝撃画像》ゾンビタバコ、大麻、コカインが蔓延する「未成年バー」の実態とは 少年は「あれはヤバい。吸ったら終わり」と証言
NEWSポストセブン
米ルイジアナ州で12歳の少年がワニに襲われ死亡した事件が起きた(Facebook /ワニの写真はサンプルです)
《米・12歳少年がワニに襲われ死亡》発見時に「ワニが少年を隠そうとしていた」…背景には4児ママによる“悪辣な虐待”「生後3か月に暴行して脳に損傷」「新生児からコカイン反応」
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
バイプレーヤーとして存在感を増している俳優・黒田大輔さん
《⼥⼦レスラー役の⼥優さんを泣かせてしまった…》バイプレーヤー・黒田大輔に出演依頼が絶えない理由、明かした俳優人生で「一番悩んだ役」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン
“1日で100人と関係を持つ”動画で物議を醸したイギリス出身の女性インフルエンサー、リリー・フィリップス(インスタグラムより)
《“1日で100人と関係を持つ”で物議》イギリス・金髪ロングの美人インフルエンサー(24)を襲った危険なトラブル 父親は「育て方を間違えたんじゃ…」と後悔
NEWSポストセブン
「父と母はとても仲が良かったんです」と話す祐子さん。写真は元気な頃の両親
《母親がマルチ商法に3000万》娘が借金525万円を立て替えても解けなかった“洗脳”の恐ろしさ、母は「アンタはバカだ、早死にするよ」と言い放った
NEWSポストセブン
来日中国人のなかには「違法買春」に興じる動きも(イメージ)
《中国人観光客による“違法買春”の実態》民泊で派遣型サービスを受ける事例多数 中国人専用店在籍女性は「チップの気前が良い。これからも続けたい」
週刊ポスト
競泳コメンテーターとして活躍する岩崎恭子
《五輪の競泳中継から消えた元金メダリスト》岩崎恭子“金髪カツラ”不倫報道でNHKでの仕事が激減も見えてきた「復活の兆し」
NEWSポストセブン
自宅への家宅捜索が報じられた米倉(時事通信)
米倉涼子“ガサ入れ報道”の背景に「麻薬取締部の長く続く捜査」 社会部記者は「米倉さんはマトリからの調べに誠実に対応している」
米・フロリダ州で元看護師の女による血の繋がっていない息子に対する性的虐待事件が起きた(Facebookより)
「15歳の連れ子」を誘惑して性交した米国の元看護師の女の犯行 「ホラー映画を見ながら大麻成分を吸引して…」夫が帰宅時に見た最悪の光景とは《フルメイク&黒タートルで出廷》
NEWSポストセブン