27歳でプロデビューし、日本ミドル級、同ジュニアミドル級王者になったビニー・マーチン氏。竹原慎二のライバルでもあった(筆者撮影)
「生まれ変わってもボクシングの審判をやりたい」
そんな難しさを感じているからだろうか、「他の競技でやってみたい審判は?」と訊くと、少し考えてからこんな答えが返ってきた。
「ラグビーだね。自分は若い頃にプロサッカープレイヤーを目指したけど、サッカーは選手のアピールが凄いんだ(苦笑)。何十分も広いフィールドを走り回る大変さはサッカーもラグビーも似ているけれど、ラグビー選手たちは常に紳士的でレフェリーのジャッジを尊重する。ラグビーはとりわけ審判をリスペクトするスポーツだと思う。
あとは……選手からパンチを浴びることがない競技がいい(苦笑)。ロープを背にして防戦している選手がリング外に落ちそうになったので抱きかかえようとしたら、攻め込んでいる選手のパンチが飛んできて、目が赤く腫れてしまったことがある。仕方ないアクシデントだと判断したから、減点はしなかったけどね」
格闘技では大相撲の行司に興味があるという。最高位の立行司が腰に短刀を差し、差し違えをした時に切腹する覚悟は「いかにも日本人らしくて好きだ」と語る。
「ただ、相撲の勝敗判定は厳密には土俵下の審判員が審議する。だから行司は差し違えた翌日も土俵に上がることができる。ボクシングは命に関わるスポーツだけに、レフェリーに明らかなミスがあれば、しばらくはリングに上げてもらえない。その意味ではボクシングの審判のほうがプレッシャーは大きいのかもしれない」
マーチンは「生まれ変わってもボクシングの審判をやりたい」と話す。
「命懸けで戦うスポーツだからこそ、選手たちの命を守るレフェリーはかけがえのない存在です。もちろん、その前に選手としてリングに上がりたい気持ちが強いですね」
(了。第1回から読む)
※『審判はつらいよ』(小学館新書)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
鵜飼克郎(うかい・よしろう)/1957年、兵庫県生まれ。『週刊ポスト』記者として、スポーツ、社会問題を中心に幅広く取材活動を重ね、特に野球界、角界の深奥に斬り込んだ数々のスクープで話題を集めた。主な著書に金田正一、長嶋茂雄、王貞治ら名選手 人のインタビュー集『巨人V9 50年目の真実』(小学館)、『貴の乱』、『貴乃花「角界追放劇」の全真相』(いずれも宝島社、共著)などがある。ボクシングレフェリーのほか、野球、サッカー、大相撲など8競技のベテラン審判員の証言を集めた新刊『審判はつらいよ』(小学館新書)が好評発売中。