1984年に全日本柔道連盟の審判員となり、1996年に「正木道場」を興す一方、55歳まで全国大会に出場し「柔道界の鉄人」と呼ばれた正木照夫氏

1984年に全日本柔道連盟の審判員となり、1996年に「正木道場」を興す一方、55歳まで全国大会に出場し「柔道界の鉄人」と呼ばれた正木照夫氏(撮影/杉原照夫)

国際試合では「言語と国籍の壁」がある

 正木が主審を務めた国際大会で、判定をめぐって意見が分かれたことがある。一方の選手が関節技で対戦相手に体を預けたため、「危険な技」として正木は試合を止めた。すると副審の一人が手を挙げたのだ(柔道のルールは度重なる変更がなされている。当時は主審と副審2人による判定だった)。

「副審の一人はフランス人、もう一人はアメリカ人だったと記憶しています。3人で“危険な技にあたるかどうか”で意見を交わしたのですが、2人とも母国語で話すので私の判定に賛成なのか反対なのかわからない(苦笑)。反則技の判断はとりわけ微妙なので、通訳を介せないのは大変でした。

 試合は生中継されていたこともあって、私も戸惑う姿を見せられません。そこで副審を制したうえで、覚悟を決めて自信を持って反則負けを宣告しました。幸いにも両副審ともに納得した表情で頷いてくれました」

 言葉の壁だけではなく、「国籍の壁」をめぐる騒動も体験した。

 1995年の福岡国際女子柔道選手権48㎏級の決勝、田村亮子(現在は谷亮子)とサボン(キューバ)のカードで正木は主審を務めた。

「大会名は“福岡国際”ですが主催は全柔連だったため、審判員はほぼ全員日本人で、決勝の副審2人も日本人でした。ところがキューバ陣営から“日本人選手が出場する試合なのに、なぜ主審が日本人なのか”と抗議を受けたのです。“五輪や世界選手権ではないので外国人の審判員を招くことが難しく、日本人の審判をローテーションから外せば審判員の数が足りない”と説明し、了解されました」

 だが、こうした指摘を踏まえて「試合に出場する選手と同じ国籍の審判は避けよう」ということになり、五輪では選手と同地域の審判まで外すようになった。

「選手や観客に“自国選手を有利にしている”という誤解を招かないためにやむ得ない措置だと思いますが、皮肉にもシドニー五輪の“世紀の誤審”のようなことを引き起こす原因にもなっている。特に男子の国際試合の審判員には、日本人に限らず“元トップ選手”が少ない現実があります。一方、女子の国際審判員は五輪のメダリストが多く、審判としての技術も高い。本来は男子の審判もそうあるべきだと思います」

関連記事

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン