京都国際の「サウスポー2枚看板」である中崎琉生(左)と西村一毅
「変わった子ばかり」だから勝てた
西村とは対照的に、将来プロに入るための道筋をしっかり考えているのが高校日本代表にも選出されたエース左腕の中崎琉生だ。プロ志望届は提出せず、國學院大學に進学して4年後のプロ入りを目指す。
「中崎には法政からも声がかかっていたんです。しかし、國學院の方がキャンパスとグラウンドの距離が近いらしく、移動時間が少ない分野球に集中できるという理由で國學院を選んだ。こういう考え方ができる選手も、うちでは珍しいですね」
京都国際に在籍する一学年約20人の球児たちは、個の能力を伸ばし、長く野球界で活躍する選手を育成しようという小牧らの志に共感し、彼らの指導を受けるために京都国際の門を叩いたのだ。
「将来、プロを約束されたような飛び抜けた選手はひとりもいないし、中学時代の実績も何もない子ばかり。西村のように変わった子ばかりなんです。だからこそ、彼らも入学にあたって元は韓国の学校だったとか、校歌が韓国語だとかは気にしないんでしょうね。甲子園に出場したいという意欲のある子、プロへの思いの強い子が入ってくれるようになったから、結果が伴い始めた。それやのに、学校の話題ばかりが先行するのはやっぱり納得できないですし、彼らの成し遂げたことを讃えて欲しい」
新チームの練習中、左翼70m、右翼60mという同校のグラウンドに、小牧の怒号が響いていた。
「常に甲子園で対戦するようなチームを想定して練習せな、日本一になんてなれへんねん」
低反発バットが導入され、今夏の甲子園でもロースコアの展開が圧倒的に増え、守備力と走力のあるチームこそ試合を優位に運べていた。そんな高校野球新時代の覇者になったとはいえ、余韻に浸る間もなく、新チームの選手たちと再び天下取りを目指す日常を小牧は取り戻していた。
(了。第1回から読む。文中敬称略)
■柳川悠二(やながわ・ゆうじ)/ノンフィクションライター。1976年、宮崎県生まれ。法政大学在学中からスポーツ取材を開始し、主にスポーツ総合誌、週刊誌に寄稿。2016年に『永遠のPL学園』で第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞。他の著書に『甲子園と令和の怪物』がある