ライフ

【新刊】リアリティ番組を通して描かれる、個と国家に関わる“抑圧と暴力”芥川賞受賞・安堂ホセ氏『DTOPIA』など4冊

個の持つ時間は有限でも、“継ぐ”ことで繋がっていく大切な未来

個の持つ時間は有限でも、“継ぐ”ことで繋がっていく大切な未来

 アメリカでは新しい大統領が就任し、世界が大きく変わるかもしれない状況が訪れた。そんな今だからこそ、本を読み多様な知見に触れてみるのはいかがだろうか。オススメの新刊4冊を紹介する。

『藍を継ぐ海』伊与原新/新潮社/1760円

 著者の作品にはいつも地球の風が吹く。最初はミステリー作家を目指していたと聞き、地球のミステリー作家になられたのだなと思う。徳島の中学生沙月がウミガメの卵を孵化させようとしたことから環太平洋の壮大な海流を体感する表題作ほか、地質研究者の歩美と陶芸家未満の風来坊が、山口県の見島で出会う「夢化けの島」など計5編。読後は、肺が清浄な空気で満たされる。

トラウマの開示は「人格をジャッジする権限を(他人に)明け渡すようなものだよ」(本文より)

トラウマの開示は「人格をジャッジする権限を(他人に)明け渡すようなものだよ」(本文より)

『DTOPIA』安堂ホセ/河出書房新社/1760円

 ボラ・ボラ島を舞台に、各都市のイケメン達が美女の指名を争う恋愛リアリティ番組。地元のモデル事務所で“賑やかし”として調達されたモモはそこで幼馴染みの「おまえ」(Mr.東京こと井矢汽水=キース)と再会する。家族、ミックスルーツ、トランスジェンダー、核実験、パレスチナなど、個と国家に関わる“抑圧と暴力”が充満。この過剰さ、いつか大作に実ると予感させる。

23歳の大学院生が初ノミネートで受賞。父上は木工が得意な牧師さんとか

23歳の大学院生が初ノミネートで受賞。父上は木工が得意な牧師さんとか

『ゲーテはすべてを言った』鈴木結生/朝日新聞出版/1760円

 結婚記念日に娘が用意したイタリア料理店でのディナー。統一は愛の名言を集めた紅茶のタグにゲーテの名言を見て、ゲーテ研究第一人者の探究心で出典を突き止めようとする。今際の際に「もっと光を」と言ったゲーテにちなむかのように、今の暗めの小説界に光を持ち込んだ作。同僚の捏造論文や娘の恋人の正体など、読者の脇腹をくすぐるユーモアにも長け、じんわり幸福に。

お産や月経が「穢れ」とされた時代に女性達を苦から解放した熱意の人々

お産や月経が「穢れ」とされた時代に女性達を苦から解放した熱意の人々

『月花美人』滝沢志郎/KADOKAWA/2145円

 生理用品に革命が起きたのは1961年発売のアンネナプキン。もしそれに類する物が江戸時代にあったら? 剣豪として知られる誇り高き望月鞘音、鞘音の兄夫婦の遺児若葉、紙問屋の跡継ぎや漢方の女医など、個性豊かな面々がそれぞれの理由から開発に傾けた知恵と工夫と情熱を描く。佐賀のカリスマ書店長・本間悠さんの「ほんま大賞」を受賞。女性の味方賞も差し上げたい。

文/温水ゆかり

※女性セブン2025年2月20・27日号

関連記事

トピックス

炊き出しボランティアのほとんどは、真面目な運営なのだが……(写真提供/イメージマート)
「昔はやんちゃだった」グループによる炊き出しボランティアに紛れ込む”不届きな輩たち” 一部で強引な資金調達を行う者や貧困ビジネスに誘うリクルーターも
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
藤浪晋太郎(左)に目をつけたのはDeNAの南場智子球団オーナー(時事通信フォト)
《藤浪晋太郎の“復活計画”が進行中》獲得決めたDeNAの南場智子球団オーナーの“勝算” DeNAのトレーニング施設『DOCK』で「科学的に再生させる方針」
週刊ポスト
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
「漫才&コント 二刀流No.1決定戦」と題したお笑い賞レース『ダブルインパクト』(番組公式HPより)
夏のお笑い賞レースがついに開催!漫才・コントの二刀流『ダブルインパクト』への期待と不安、“漫才とコントの境界線問題”は?
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン
韓国・李在明大統領の黒い交際疑惑(時事通信フォト)
「市長の執務室で机に土足の足を乗せてふんぞり返る男性と…」韓国・李在明大統領“マフィアと交際”疑惑のツーショットが拡散 蜜月を示す複数の情報も
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
高校時代にレイプ被害で自主退学に追い込まれ…過去の交際男性から「顔は好きじゃない」中核派“謎の美女”が明かす人生の転換点
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《死刑執行》座間9人殺害の白石死刑囚が語っていた「殺害せずに解放した女性」のこと 判断基準にしていたのは「金を得るための恐怖のフローチャート」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン