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《横須賀から全国へ》16年ぶりの名門復活へ歩み始めた日産野球部、伊藤新監督が明かした意気込みとチーム作り「技術の日産ふさわしいチームに」

緑の芝生に映えるチームカラーの青を基調としたユニフォーム

緑の芝生に映えるチームカラーの青を基調としたユニフォーム

 よく晴れた春の日、緑の人工芝に映えるユニフォーム。爽やかな掛け声と打球音が横須賀の空に響き渡る。約16年の長い眠りから目覚めた日産自動車硬式野球部の、新たな物語が今、始まろうとしている。

 チームスローガンは「再翔」。再び大空へと羽ばたこうとする決意が込められている。2月17日、神奈川県横須賀市の追浜工場で新体制が発表されてから間もないこの日、NEWSポストセブンは練習場を訪れた。

横須賀での再出発

 この日の練習場は、横須賀市内にある高校のグラウンド。まだ専用の屋外練習場を持たないチームは、市内のさまざまな場所を借りながら汗を流している。チームを率いるのは伊藤祐樹監督だ。

「かつて日産野球部は横須賀市代表として、都市対抗野球に出場していましたが、横浜市に練習場や寮などの拠点があったんです。復活にあたり候補地はたくさんありましたが、『地元から愛されるチーム』を目指してもともと拠点があった横須賀を選びました」

 伊藤監督自身も1995年に日産自動車に入社し、ショートストップとして活躍。1998年には第69回都市対抗野球大会で優勝に貢献し、社会人ベストナインにも輝いた。日産野球部の血を引く指揮官の目は、未来を見据えている。

「横須賀市とスポーツ振興に関する連携協定を結ばせてもらったんです。プロ野球の横浜DeNAベイスターズの2軍施設もあるこの地を『野球の街・横須賀』として盛り上げていきたいですね」

 その言葉通り、すでに地元商店にある飲食店では『野球部応援メニュー』が登場するなど、地域との絆が育まれつつあるという。

屋外で練習をする砂川選手

屋外で練習をする砂川選手

フレッシュな風が吹く練習風景

 この日は午前9時に練習がスタート。約2週間後に迫る初戦に向け、シートノックやシートバッティングなど実践的なメニューをこなしていく。時には伊藤監督自らマウンドに上がり、バッティング練習の相手をする場面も。

自主練の時間もつきっきりで指導をする伊藤監督

自主練の時間、室内練習場には比嘉捕手(左)と砂川投手(右)の姿が

 午後からはフリータイム。この日は5人の選手が自主練習に励む傍らで、伊藤監督がバントのお手本を示しながらつきっきりで指導する姿が印象的だった。

「言葉で伝えてもなかなかイメージできないと思うので、実際に自分がお手本を見せることを大事にしています。それから論理立てて説明することも大事ですね。この力は、日産自動車野球部が休部している間のサラリーマン経験で身についたと思います」

 追浜工場にほど近い場所に、チーム専用の室内練習場がある。

「野球部が復活するにあたり、ゼロから環境を作り上げたんです。他のチームでコーチとして指導した経験もありますが、この広い室内練習場はとても恵まれていると思いますね。練習したい時にいつでもできる環境が整っています」

広々とした室内練習場を備え、雨天時でも練習が可能

広々とした室内練習場を備え、雨天時でも練習が可能

 チームの特徴は何といってもそのフレッシュさ。キャプテンの石毛大地選手以外は大学を今春に卒業予定の新人たちだ。

「チームを一から作り直すにあたり、大学までスポーツを頑張ってきたアスリートの受け皿になりたい。そんな思いでフレッシュな顔ぶれを集めました」と伊藤監督は口にする。

砂川投手(左)と比嘉捕手(右)

砂川投手(左)と比嘉捕手(右)

沖縄出身のバッテリーが入部

 注目の新戦力が、砂川羅杏投手と比嘉久人捕手だ。ふたりは沖縄県立八重山高校から共栄大学まで、ずっとバッテリーを組んできた仲。なぜ新生チームを選んだのか。

「自分たちは大学4年生の時に全国に出て、社会人でも野球を続けたいなという思いがありました。そんな時に伊藤監督から一緒にやらないかとお声がけいただいた。“歴史あるチームの一期生”としてプレーできるのはまたとないチャンスだと思い入部を決めました」

 と砂川投手は目を輝かせる。

「最近では、配球などで息が合うようになったと思います。最初はサインが合わず首を振ることも多かったですが、最近は自分の持ち玉とかその日良いボールを引き出してくれます」

八重山高校時代からバッテリーを組む砂川投手(左)と比嘉捕手(右)

八重山高校時代からバッテリーを組む砂川投手(左)と比嘉捕手(右)

 チームの雰囲気や練習環境についてはどう考えているのだろうか。

「いろんな大学から集まっているということもあり、最初は正直緊張する部分もありましたが、みんな同級生なのですぐに仲良くなれました。チームからは道具もいただけたり、練習環境も整備していただいてありがたいです」(比嘉捕手)

 オフの日は、皆で自炊をしたり、電車で出かけることもあるという。

名門復活へ

 過去に都市対抗大会を2度制した強豪・日産野球部。しかし、神奈川県は昨年の都市対抗優勝の三菱重工East、ENEOS、東芝など強豪ひしめく激戦区だ。

 公式戦初戦となる3月19日の三菱重工East戦に向け、意気込みを聞いた。

「初の実戦で前回覇者と対戦。今の自分たちがどこまでできるのか、胸を借りるつもりで挑みたいですね」(伊藤監督)

3月19日に迫る初戦に向け、意気込みを語る伊藤監督

3月19日に迫る初戦に向け、意気込みを語る伊藤監督

「僕たちはコロナで甲子園が開催されなかった世代なんです。だから、全国(都市対抗野球や日本選手権)への思いはあります。野球で恩返しではないですけど、自分たちが結果を残すことで会社に貢献できればと思います」(比嘉捕手)

 新ユニフォームは日産のコーポレートカラーと横須賀市の市章に使われる青を基調としたデザイン。右胸には代々、野球部に受け継がれてきた象徴『ブルーバード』があしらわれている。

胸には日産自動車野球部伝統のブルーバードが

胸には日産自動車野球部伝統のブルーバードが

「実はこの『ブルーバード』は、野球部が創部された同じ年の1959年に発売され、追浜工場で長期間量産された日産のレジェンドカーにちなんでいるんです。

 かつての野球部も『技術の日産』にふさわしく、バントや盗塁などの小技が冴え、とにかく守備が固かった。そのようなチームを目指したいですね」

 と伊藤監督は歴史を噛みしめる。

会社への思いも語った伊藤監督

会社への思いも語った伊藤監督

日産復活のシンボルに

 経営の難局が続く日産自動車。野球部の復活が、会社再建の象徴となるのかもしれない。

「野球部の活躍を見て、『やっぱり日産はいい会社だな』『頑張っているな』と思ってもらえたら嬉しいですね」(伊藤監督)

 青い空の下、ユニフォームに身を包んだ選手たちが懸命にボールを追う。かつての名門復活へ──。その第一歩が、今、横須賀の地で踏み出された。

日産自動車本社硬式野球部 | 日産自動車企業情報サイト

〈撮影/小倉雄一郎〉

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