古いマンションに住む方々、必読。2票差で政権交代に成功した奇跡の物語
雨が降ったり、夏日になったり、なんとも不安定な気候が多いこの季節。休みの日には、屋内でゆっくり読書でもしてみてはいかが? おすすめの新刊4冊を紹介する。
『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』栗田シメイ/毎日新聞出版/1760円
“コレ自分も経験!”と夢中で読み耽った。住人が高齢化した集合住宅、長年居座る理事長、理事長と利益共同体の理事会、事なかれ主義の所有者達。4つ揃えば外観はまともでも中身はドロドロ(みんな口チャックして売りに出す)。南欧風外観で知られる秀和レジデンスを舞台に区分所有者達が起こしたクーデターの感動的記録で、コレ本当に奇跡。有志達にコウベを垂れる。
そのピンチは誰が招いたの?うっかりメーターが教えてくれる
『大ピンチずかん3』鈴木のりたけ/小学館/1650円
子供の大ピンチって大人のものでも。例えば飛び散ったケチャップ、出てこない相手の名前、オチョコになった傘。この3では「うっかりメーター」を創案。ピンチ度とうっかりメーターが似た数値なら、それは自分のせい。雨の日に付いてきた猫を見捨てられなくて、家猫にした少年のピンチレベルは0~100。愛情で0、給餌など世話を面倒くさがると100に。いいとこ突いてます。
村上式マジックリアリズム小説。再読で、物語はより味わい深く
『街とその不確かな壁(上)(下)』村上春樹/新潮文庫/上巻990円、下巻935円
17歳の男子が恋した16歳の女の子。大人になった男は、彼女が本来自分の居る場所と言っていた街へスリップする。そこは高い壁に囲まれ時が意味を持たない並行時空。彼は図書館で16歳の彼女と再会するが……。「現実とはおそらくひとつだけではない。現実とはいくつかの選択肢の中から、自分で選び取らなくてはならないものなのだ」という一文が読後もリフレインする。
はた迷惑な後期高齢者達のオレ様ぶり。でもそれは元気の証しでもありまして
『老害の人』内館牧子 講談社文庫 990円
コロナ禍の最中に85歳になった福太郎。戦後、花札や双六の製造販売で成功し、娘の明代一家と暮らす。明代が老害と呼ぶのは老人達がリピートする手柄話や病気自慢の性癖。会話部分でそれを体感させる内館節(辛辣&ユーモラス)に笑うが、孫世代がこのお話に緑風を吹き込む。男子高校生の決断、孫自慢を嫌っていた明代の豹変。愛嬌ある人間達の営みって読み飽きません。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年5月29日号