被告の完全敗訴

 二つの裁判は地裁で原告の石井が勝訴し、控訴審まで争われたが、ともに控訴棄却となり、石井側の全面勝訴が確定している。一審の東京地裁判決言い渡しは、一つ目の会社による損害賠償請求が2022年3月で賠償額がおよそ1800万円、次の個人が昨年4月で約6400万円となっている。合わせて約8200万円もの賠償命令が下った。その裁判ではむろん原告の石井の尋問もあった。

「役員でもあり弁護士という職業柄もありますから、まさか嘘をつくなんていうことは思ってもみませんでした」

 怒りをぶちまけていた。

「実際に(BIRDELLを)買ってみると、もうメッチャクッチャな会社で、もう経営なんかどうにもならないっていう状態でしたから、嘘つきだと思って呆れましたね」

 日大法学部教授で弁護士の松嶋隆弘に判決文を分析してもらった。

「会社と個人の両方の訴えのどちらも、原告側の主張が100パーセント認められています。ただしこの裁判における注目点はそれだけではなく、被告(今井)には弁護士と会社の取締役という二つの側面があることです。会社法の423条ならびに民法709条違反の取締役としての任務懈怠、善管注意義務違反の疑いが濃い。原告代理人も当初はその点を強調し、民法に基づく会社に対する特別背任に該当する不法行為だと主張していたといいます」

 特別背任は日産カルロス・ゴーン事件などで適用された刑事事件の罪のイメージが強いが、これは民事上の不法行為だ。それでもやはり特別背任となると、より重い責任が問われる。

「もっとも民事上の完全勝利が見えてきたのでそこまで追及する必要はない、と原告側が特別背任の主張を取り下げたのでしょう。それは理解できます。ただし、弁護士である被告が取締役としてここまでの任務懈怠を指摘されるのは、限りなく故意に近い重過失と言わざるを得ません」

 仮に賠償金を支払わなければ、少なくとも弁護士資格を失う事態なのだというが、当の今井は賠償命令の判決が確定すると、さっさと石井側に支払ったようだ。8000万円をいとも簡単に払える資金力があるということかもしれないが、それ以上に本人の念頭にあるのは、政治家への転身だったのではないだろうか。

 先に書いたように、今井は宮沢洋一の次男を破り、衆院広島5区支部長として名乗りを上げている。万が一、解散総選挙があれば、自民党候補として出馬するかもしれないのである。原告の石井は昨年他界し、話を聞くことはできないが、詐欺師と名指しされた今井をはじめとした関係者たちは、どう答えるか。

 M&Aコンサルタントは「話すことはない」と逃げを打ち、BIRDELLの元社長はこう嘯く。

「(今井もコンサルタントも)覚えていないですね。代表者(の石井)とは話しましたけれど、そもそもうちの資料を見て買っているわけですから、あとになって訴えるのはおかしいのではないでしょうか」

 被害に遭ったのは石井であり、それを賠償したのが今井だ。あなたの腹は痛んでいないのではないか。そう聞こうとしたが、これ以降は連絡を絶ったままだ。そして今井はメールでこう回答した。

「私は、社外取締役として就任したのであり、M&Aの担当役員のような形ではございません。BIRDELL社のM&A案件を石井氏に紹介し、石井氏をはじめとするM&T社の了承及び依頼のもと、弁護士として業務を行いました。石井氏が個人の資産をもとに買収したいという意向を示し続けていたためです。(賠償については)ご遺族と和解が成立しています」

 とどのつまり、弁護士としてM&Aの職務をしたが、担当役員ではなく、あくまで石井の意志で行なったもの。賠償については答えず、和解したと言うだけだ。ここへ来て、衆参ダブル選の断念も聞こえてきた。自民党総裁はどう対処するつもりだろうか。

【プロフィール】
森功(もり・いさお)/ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ――加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション大賞受賞。『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』、『菅義偉の正体』、『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』など著書多数。

※週刊ポスト2025年6月27日・7月4日号

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