妹が兄の子を生んだケースもある。裕福な家庭に育ち、高学歴だが就職に失敗して実家に引きこもるようになった兄と、高校生の頃に見知らぬ男らから性暴力被害を受けたが、両親に助けてもらえず兄に依存するようになった妹の話だ。
「互いにパートナーがいた時もあったけど、真に心を許すことができるのはきょうだいだけだったといいます。すでに両親は他界して、子の出自について公にはできない状態ですが、2人は愛し合ってできた子だと主張。ともに独身で同居する2人は、孤児院育ちの少女を育てる小説『赤毛のアン』のように、娘を立派に育てたいと語っていた。“近親事実婚”とも言うべき状況です」
近親性交はなぜ起きるのか。阿部氏は「社会からの孤立」と「家族の親密」がキーワードと語る。
「近親性交に至る家族の多くは社会に居場所がなく、家にこもって家族との距離が密接になっていく。その過程で、家族を性のパートナーとする事例を見てきました」
阿部氏は、様々な家庭での事例を見てきた。
「地元の名士で慈善活動家として知られた家父長的な考えの父に、14歳の頃から性的暴行を受けていた娘が、兄からも性暴力を受けていたケースがありました。
一方、親の給料が少なく生活が厳しい環境で育った娘に『ママのヒモのくせに』『失せろ、クソジジイ』などと侮辱された父が逆上し、娘を強姦しようとしたケースもある。前述の妹に子供を生ませた兄も人生に挫折して劣等感を抱くようになり、家族以外との関係性を構築できませんでした」
DVや虐待と同様に、家庭内で「連鎖」する特徴も見られるという。
「母が息子の子を生んだケースでは、この母の夫も、実の母と母子結合の経験がありました。ほかにも、幼い頃に姉に服を脱がされて肛門にモノを入れられるなどの性的暴行を受けた弟が、大人になって復讐のため姉をレイプしたり、娘が祖父と父の双方から性的暴行を受けた事例があります」