父から子の近親性交は「制裁」や「支配」「飲酒」といった動機や原因が見られる一方、母から子への場合は様相が異なった。
「正しい性行為の知識を教えるための“躾”だとの主張や『母乳をあげるのと同じ』といった意見、さらに子供を産みたいといった理由が見られた」
著書に並ぶ事例には驚かされるばかりだが、これらを自分とは無縁の“異常な事象”と思わないでほしいと阿部氏は強調する。
「近親性交が発生する根底には、閉鎖的な日本社会の性質があると考えています。犯罪加害者家族を含め、そうした日本社会から隔絶された人々が最後に残された家族に執着し、近親性交という結末を迎える例があるということです」
阿部氏の聞き取りに応じた人たちも、「近親性交」がタブー視されないことを望んでいるという。
「日本では家庭が最も安心できる場所だという家族神話や、清く正しい性活動を求める性規範が強いですが、近親性交による加害と被害をタブー視して隠蔽することは、当事者を追い詰めることにつながります。
それは近親性交において『被害者=加害者家族』となる構図とも無縁ではないでしょう。どんな状況でも被害者は隠し立てせず助けを求めていい。そのことを社会に伝えたいと思っています」
同書では重い問いが投げかけられている。
※週刊ポスト2025年6月27日・7月4日号