※環境省発表のデータをもとに本誌作成。「人身被害者数」のカッコ内は死亡者数。北海道は出没数の公表を行なっていないため「出没件数」に北海道は含まれていない。’25年度の出没件数は7月28日、人身被害者は8月5日現在。
攻撃を受けてもがまんする
万が一クマを前にしたらどう対処すればいいのか。小池さんは「個体差があり“絶対”はない」と前置きした上でこう話す。
「大事なのは、クマを興奮させないこと。そのためには人間側がパニックに陥らないよう努める必要があります。大きな声を出したり、背を向けて走って逃げるのは絶対にNG。クマは動くものに反応する習性があり、時速50kmで追いかけてきます。クマの動きを見ながら、ゆっくりと後ずさりして距離を置くようにしてください」(小池さん・以下同)
では、出会った時点で距離が近く、いきなり襲われた場合はどうしたらいいのか。
「骨格的にクマは、振り上げた腕を真下にしか下ろせません。二本足で立ったクマに腕を振り下ろされて、頭に大けがをする人が多いのはこのためです。
クマ事故での死因は失血死が多く、太い血管を守ることが重要と考えられます。そのためにクマが攻撃してきたら抵抗せずにうつ伏せになり、両手を首の後ろで組んで首回りの動脈を守る。その間、強烈な攻撃を受けたり噛まれたりするかもしれませんが、クマが立ち去るまでがまんするしかありません」
一方で、市街地に出没したクマは駆除されるケースもある。冒頭の事件もそうだが、クマの駆除には非難の声も聞こえる。
「クマ対策で難しいのは、人々のクマに対する印象が“怖い”と“かわいい”に分かれるところにあります。ただ、住宅街に現れたクマを檻で捕らえて山に返してしまうと、クマは“人間に捕まっても帰ってこられる”と学習し、すぐにまた人前に現れてしまう。一度でも人前に現れたり人間を襲ったクマは、安全のために駆除するしかないのが実情です」
駆除されたクマはどうなるのか。2019~2023年に北海道で乳牛など66頭を襲い32頭を殺したと推定されるヒグマ(通称・OSO18)は、2023年7月に駆除され、食肉処理されて都内を含む数店舗のジビエ料理店で熊肉として提供された。
「食肉として流通するのは、ほんのわずかな個体です。ほとんどの場合、クマの肉は食用にならず、地中に埋めて処理されるのが一般的です」
クマが人間の生活圏に侵入することが増えたことで、今年9月から「緊急銃猟ガイドライン」がスタートする。これまでは市街地にクマが出没しても、都道府県と警察官の許可がなければ猟銃の使用が認められなかった。だが今後は、市町村長の判断と指示で、委託を受けたハンターが猟銃を用いて素早く駆除できるようになる。
法改正が必要なほど、クマの脅威はすぐそばに迫っているのだ。
※女性セブン2025年9月11日号