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【書評】『ローラン・ボック 欧州最強プロレスラー、人生の軌跡』「地獄の墓掘り人」の呆れるほどのバイタリティとアンバランスな不器用さ

『ローラン・ボック 欧州最強プロレスラー、人生の軌跡』/アンドレアス・マトレ・著 沢田智・訳

【書評】『ローラン・ボック 欧州最強プロレスラー、人生の軌跡』/アンドレアス・マトレ・著 沢田智・訳/サウザンブックス社/3960円
【評者】川添愛(言語学者・作家)

 優れた自伝や評伝をわくわくしながら読んでいると、ふと「実在の人物が実際に歩んできた人生の物語を、こんなふうに楽しんでしまっていいのだろうか?」という想いが頭をよぎる。つい夢中になって読んでしまう「人生」であればあるほど、申し訳なさも強くなる。

 そういった意味で、本書が私にもたらした喜びと心苦しさは最大級のものであり、読んでいる間じゅう、二つの想いに引っ張られ続けた。主人公は、かつて「地獄の墓掘り人」と呼ばれ、アントニオ猪木との闘いでファンを沸かせた欧州最強のプロレスラー、ローラン・ボックだ。

 ボックの人生は、闘いと挑戦の連続だ。幼少期に植え付けられたトラウマを克服してドイツのアマレスとプロレスの頂点に立ち、ビジネスにも熱心に取り組む一方で、家族との不和や数々の障壁に苦しむ。その呆れるほどのバイタリティと、アンバランスな不器用さに惹きつけられる。

 驚いたのは、猪木の人生との奇妙な符合だ。モハメド・アリとの試合のために多額の借金を負った猪木と、猪木を欧州に招聘して大損を出したボック。また、人生を賭けたビッグマッチが世間的な評価を得られなかった点も共通している。

 何より、ファイターの枠にとどまらず、次々と事業に挑戦するところがよく似ている。ボックも猪木と同じく、常識外れの大きな夢を描き、実現のために猛進してしまう人なのだ。猪木はこの世を去ってしまったが、ボックは今も新たな事業を展開し、挑戦を続けている。

 本書の出版は、翻訳者の沢田智氏がクラウドファンディングを募って実現した。あとがきによれば沢田氏は、「やれるのか、おい!」と問われたら「やりますよ!」と答える「猪木イズム」でファンディングに臨んだという。そのおかげで本書に出会えたことに感謝したい。

※週刊ポスト2025年10月3日号

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