凶行に及んだ野津容疑者
ボーガンの矢の「命中精度」「初速度」「貫通力」を問い合わせていた
弁護側は、野津被告が事件当時、心神耗弱状態にあったと主張しているが、初公判で取り調べられた客観証拠からは、“確実に殺害するための計画性”が見て取れた。亡くなった3人はいずれも、側頭部を撃たれたことにより亡くなっている。これは“頭蓋骨の中でも比較的柔らかい側頭部を狙う”と被告が計画していたことによる。また当初はナイフで殺害する計画を立て、ナイフを購入していたが、途中で「ナイフよりも抵抗が少ないのでは」と考えたことから、凶器をボーガンに変更し、購入した。この抵抗が、物理的なものか心理的なものかは、明らかにはなっていない。
さらに証拠調べでは、ボーガン販売業者の店員と被告とのメールのやり取りが法廷で読み上げられ、それらのメールからは被告がボーガンの矢の「命中精度」「初速度」そして「貫通力」にこだわって質問を繰り返していたことが明らかになった。
販売業者の店員は「ニュースで被告人の名前を見て、恐れていたことが起きた、やっぱりそういうことか、と思うと同時に、メールでの問い合わせに合点がいく感じがした」と調書に語っている。
被告からの問い合わせメールは、事件の2日前まで続いていた。2020年3月には「ブレードヘッドをつけると貫通力が上がるか?」との問い合わせを受けたという。店員はこのとき「なぜ貫通力を求めるのか? 競技用ならば貫通力は必要ないからです」と疑問に思ったそうだ。特定のボーガンについての初速度を尋ねる問い合わせもあった。
「命中精度、貫通力、初速度。こんなことを聞いてくる人は稀。考えれば考えるほど、質問が事件に関係していたと全てに合点がいき、怖いです。人を殺す道具として使うと分かっていれば販売はなかった」(店員の調書)
被告はボーガン販売店に質問を繰り返すなか、自身でもインターネット検索を繰り返していた。
〈クロスボウ事件 ニュースにならない〉
〈ボーガン 頭蓋骨 厚さ〉
〈ボーガン 殺傷能力〉
検索ワードの中には〈刑務所 出所後 名前〉など、本当に死刑になるつもりで事件を起こしたのか疑問を感じる内容も見られた。就職したばかりの弟が社員寮に引っ越す前日に事件を起こした被告。弟と母親、祖母の遺体の足元には、塩とおぼしき白い粉末が盛られていた。本当に死刑になるつもりで事件を起こしたのか。それとも家族への愛憎が増大した末の暴走か。被告人質問では、くぐもった声で何を語るのか。
◆取材・文/高橋ユキ(ノンフィクションライター)