メーカーではなく地域の販売会社幹部からの指令だった(写真提供/イメージマート)
SNSでバズるのは良いことばかりではない。広く注目を集めるのは間違いないが、返ってくる反応はさまざまだ。その対応で心身ともに疲弊させられ、SNSから距離を置きたくなるものだろう。だが、それを「仕事」として命じられるとどうなるか。ライターの宮添優氏が、経営陣の命令でSNSへ動画投稿させられた従業員たちについてレポートする。
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「営業マンが面白おかしく、まるで漫才のようなやり取りを展開しながら車を紹介していくんです。確かに面白いし、再生回数も上がっている」
関東南部某県の自動車ディーラーで働く男性は、県内にある系列のディーラーがSNSで発信する映像を見ながら、思わずため息をついた。男性のスマホには、ピカピカの新車の前で、スーツ姿でダンス(のような動き)をする中年男性が映し出されていた。
「系列店の幹部なんですが、下手なダンスをしたり、車の仕様について”ここがダメ”など、普通の営業マンが言わないような尖った物言いで、ある映像などは100万回近く再生されています。面白い、紹介されていた車を買いたい、そんなコメントであふれており、親会社からは、他店でも積極的にSNSで情報発信をするようお達しがありました」(自動車ディーラーの男性)
モノを売るにしろ、人を呼ぶにしろ、今やSNSでの情報発信は当たり前だ。閑古鳥が鳴いていたような店でも、SNSがきっかけでバズれば売り上げは一気に伸び、人も集まる。ただし、やり方を間違えば、それは痛々しいだけで、売り上げが下がり、SNS発信を強要された従業員たちの士気は下がる。ディーラーで働く男性の店舗がまさに、今そうした状況に陥っているのだ。
「親会社からSNS発信の命令がありました。当然、給与査定にも響きますから、我々も早速、社内の若いメンバーを集めて短い動画をSNSで発信しました。しかし、再生数は数百回程度、コメントには説明が下手、ブス、など、出演した女性社員への誹謗中傷まで書き込まれました。我々から見たら、例の男性幹部の映像よりもずいぶんまともだと思いましたが。女性社員は、こんなの仕事ではない、恥ずかしいと言ってその後退社してしまった」(自動車ディーラーの男性)
親会社といっても、トヨタ、ホンダなどのメーカーから直接SNS発信を命じられているわけではない。地元の古い企業が県内でいくつかのディーラーを運営しているため、メーカーの意向よりも、運営元の販売会社の方針が優先されるという関係性。だから、SNS発信は絶対に拒否できるものではないというが、現場には不満が渦巻いている。