史上初の女性総理大臣に就任する高市早苗氏(撮影/JMPA)
会見を待つ間、ネット生配信用に準備された機材がすべてオンラインになったままだったことで、乱暴な軽口が全世界に発信された。その結果、配信を担当したテレビ局、その会見に出席していたメディアが炎上の主役になった。騒動はまだ鎮静化していない。ライターの宮添優氏が、日々の取材に携わる報道関係者たちの混乱ぶりをレポートする。
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「映像を見て、音声を聞いて、背筋がゾッとしました。これは大問題になるぞと」
苦々しい表情でこう振り返るのは、現役の日テレ報道局員。10月7日、東京・永田町の自民党内で行われた、高市早苗新総裁のぶら下がり取材を待つマスコミ関係者が「支持率を下げてやる」「支持率を下げるような写真しか使わないぞ」といい放ち、それが日テレのネットで生配信されたのだ。
ネット上では、発言に気が付いたユーザーらがすぐに情報を拡散。自民党の広報本部長に就任したばかりの鈴木貴子議員は、自身のSNSに「仮に冗談であったとしても放送の不偏不党、政治的に公平であることを鑑みると非常に残念な発言だ」と投稿。一方で、犯人捜しはしない、としたのだが。日テレ関係者が続ける。
「ネット上ではすぐに犯人探しが始まりました。社内調査で、発言主が日テレの関係者でないことがわかりホッとしたものの、最近、高市氏の”シカ発言”を検証する放送で大炎上していましたので、またか、という空気が拡がっています」(日テレ関係者)
高市氏といえば、かつて放送局の「停波」について言及し、マスコミや世論から大いに批判された過去を持つ。それへの意趣返しではないかと勘ぐる声もあがり、「日テレは停波すべき」「謝罪しろ」といったクレームや苦言が、視聴者センターに届いているという。ネットで音声が出た翌日、発言主は関係者ではないと日本テレビは公にした。
そして9日になると、時事通信社が映像センター写真部所属の男性カメラマンの発言であることを確認し、本人を厳重注意したと発表した。
報道関係者の間では、当初から発言主が「ベテランのカメラマンだろう」と噂されていたが、時事通信社の発表により、その予想は的中した。
「今回のように党本部で行われる会見を取材するのは、『平河クラブ』と呼ばれるテレビ局と新聞社の政治部記者で構成される”記者クラブ”です。クラブ加盟社専用の部屋があり、普段からそこに詰めています。
記者は若手が配属される傾向にありますが、カメラマンやVEはベテラン勢が中心で、顔を合わせることが多いこともあって、所属が別の社であっても横のつながりが強い。どんな職場でも長く同じ部署だと気がゆるみやすくなるように、ベテランほど、問題の発言のような軽口を日常的にしてしまいがちです」(キー局政治部記者)
7日午後のネット生配信から始まった騒動について、SNSでは報道倫理を問う声が止まない。自民党幹部の記者会見には、いまも新聞・テレビが加盟する「平河クラブ」限定となっていることもあり、特にキー局や全国紙、通信社などの大メディアが批判の的になっている。それでも報道に関わる人間は現場で取材を続けねばならないのだが、日々、取材を続ける人たちからは、日テレ側の中継体制や事後対応に疑問を抱く者もいるという。別のキー局政治部記者が続ける。