9・11テロから10年。オサマ・ビンラディン容疑者殺害により、ついに“復讐”を果たしたアメリカ。「正義は遂行された」と誇らしげに語るオバマ大統領と、歓喜に沸くアメリカ国民たちの様子に、私たち日本人は、強烈な“違和感”を覚えなかっただろうか?
ビンラディン容疑者殺害は正義か否か――この命題をあの『ハーバード白熱教室』で議論したらどうなるだろう。『これからの「正義」の話をしよう』などの著書があるハーバード大学のマイケル・サンデル教授がどう解説するか世界中が注目するに違いない。
そこで、サンデル教授と親交の深い、千葉大学の小林正弥教授に聞いてみた。
「サンデル教授は、少数部隊をパキスタンに送ってビンラディン容疑者を拘束することは、正義の観点から支持したと思います。ただし、無抵抗なのに殺害したならば、それは正しいとは考えないでしょう。オバマ大統領は殺害を『justice for all(みんなにとっての正義)』といいましたが、国際法に背いたり、すぐに殺したりするのは正義とはいえません。拘束して法廷で裁くべきでした」
小林教授は、アメリカの“ダブルスタンダード”を批判する。
「アメリカにはテロで攻撃されたのだから仕返しするのは当たり前という感覚がある。彼らは国内での法手続きや人権についてはとても敏感なのに、自国の独断で簡単に国際法を無視する二面性があります。この傾向は知性の高い人にも見られ、普段は法や手続きを重視するアメリカ人学者が『アフガン戦争に反対』と聞くと激高することがあります。悪をやっつけることが正当というアメリカの感覚はいきすぎると危ない」
なにしろアメリカはこの10年間に、ふたつの国の体制を事実上、この世から消してしまった。アフガニスタンとイラクだ。
2001年からのアフガン戦争では、当時のブッシュ大統領が「テロとの戦い」という大義のもとにアフガニスタンに侵攻。爆撃などによって国土を荒らし、多数の民間人の犠牲者を出し、タリバン政権を転覆させた。
続く2003年からのイラク戦争では、国連の決議なしにアメリカは侵攻を始め、サダム・フセイン大統領を追い詰め、結果、絞首刑台に送った。しかし、その後イラクには、「大量破壊兵器」もなければ、フセイン政権とアルカイダとの間には、何の関係もなかったことが明らかになった。
※女性セブン2011年6月2日号