国際情報

「生態系守る」は時に害虫守り途上国の人見殺しにすることも

 近年、「生物多様性」というキーワードをよく耳にする。いわく、「生物の種類が年々減っている」「絶滅危惧種を守らなければいけない」……至極ごもっともに思えるこれらの主張。だが、果たしてそれは本当か? 話題の新刊『生物多様性のウソ』(小学館101新書)を著わした武田邦彦氏が、そこに潜む偽善と欺瞞を喝破する。

 * * *
 ハマダラカという蚊によって媒介されるマラリアという病気は、ペストやコレラなどと並ぶ人類の最大の病気です。第二次世界大戦後、殺虫剤のDDTが発明され、国連は「マラリア撲滅運動」を展開。アメリカ、ヨーロッパ、日本などの主要な先進国のマラリア患者数は1960年までにほぼゼロになりました。

 DDTは極めて優れた殺虫剤で、昆虫の神経細胞を選択的に破壊するので、人間やほ乳動物、鳥類などには影響がなく、虫だけを殺すことができます。DDTのおかげで、マラリアの撲滅は時間の問題と考えられていました。

 ところが、1963年に生態学者のレイチェル・カーソンが『沈黙の春』を出版し、農薬による自然破壊を警告しました。彼女の着眼点は評価できるものですが、学問的に言えば、「DDTが鳥類に(直接)害を及ぼす」という見解は間違っていました。実際にはDDTの使用で昆虫が減ったため、それをエサにしている鳥が減ったのです。この問題は「DDTの使用量を制限する」ことで解決できたはずですが、環境運動家が社会問題として取り上げて騒いだため、学問的に冷静で合理的な判断をすることが不可能になり、一気にDDTは製造禁止にまで突き進んでしまいました。

 DDTの代わりに人間や他の動植物にも多少害のある農薬が使われるようになっただけでなく、DDTが使えなくなったために発展途上国ではマラリア撲滅計画が頓挫し、4000万人もの人々が犠牲になったのです。今も毎年100万~200万人の犠牲者を出しています。

 環境運動では、物事のある断面だけを取り出して社会問題にする傾向があり、科学と無縁の世界に陥りがちです。「生態系を守る」とは、害虫を守って開発途上国の人間を見殺しにすることなのでしょうか。

関連記事

トピックス

近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
【エッセイ連載再開】元フジテレビアナ・渡邊渚さんが綴る近況「目に見なえい恐怖と戦う日々」「夢と現実の区別がつかなくなる」
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』が放送中
ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』も大好評 いつまでのその言動に注目が集まる小泉今日子のカッコよさ
女性セブン
事務所独立と妊娠を発表した中川翔子。
【独占・中川翔子】妊娠・独立発表後初インタビュー 今の本音を直撃! そして“整形疑惑”も出た「最近やめた2つのこと」
NEWSポストセブン
名物企画ENT座談会を開催(左から中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏/撮影=山崎力夫)
【江本孟紀氏×中畑清氏×達川光男氏】解説者3人が阿部巨人の課題を指摘「マー君は二軍で当然」「二軍の年俸が10億円」「マルティネスは明らかに練習不足」
週刊ポスト
田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン
ラッパーとして活動する時期も(YouTubeより。現在は削除済み)
《川崎ストーカー死体遺棄事件》警察の対応に高まる批判 Googleマップに「臨港クズ警察署」、署の前で抗議の声があがり、機動隊が待機する事態に
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン