ビジネス

今や「会社奴隷」 日本人より米国人の方が平均労働時間長い

グローバル化の進展によって新興国の人々の生活が向上する一方、圧倒的なゆたかさを誇った先進国は大きな困難に直面することになった。世界が幸福になった代償として、いま先進国が直面している問題とは何か。資産運用や人生設計についての多数の著書を持つ作家・橘玲氏が解説する。

* * *
世界が幸福になるにつれてゆたかさが奪われていくのは、日本にかぎらずアメリカやヨーロッパなど先進国に共通の問題だ。

アメリカは1980年代にいち早く製造業からサービス業への転換に成功し、グローバル化の「勝ち組」といわれてきた。シリコンヴァレーではICT(情報通信技術)産業が勃興し、ウォール街の投資銀行は金融市場を「支配」して、我が世の春を謳歌しているように見えた。

だがその陰で、中間層の所得は減りはじめていた。

英語がグローバル言語であることによって米国企業は国際化に成功したが、それと同時にアメリカでは、製造業ばかりでなくサービス業の職までもがインドなど英語を母語とする新興国に流出していった(外への国際化)。その一方で、メキシコとの長い国境のため中南米諸国からの不法移民の流入は止まらず、彼らが飲食業や建設業など低収入の職場を“独占”するようになった(内なる国際化)。この“二つの国際化”によって、これまで世界一ゆたかだった白人中流層が没落しはじめたのだ。

アメリカではもはや、男性(父親)だけでは家計を支えられず、夫婦共働き(ダブルインカム)が当たり前になった。平均年間労働時間が2200時間を超えて、「会社奴隷」と揶揄していた日本人よりも長くなった。アメリカ人は、これまで以上に働くことで“世間なみ”のゆたかさを維持しようと必死になったのだ(1979年と比較すると、標準的なアメリカ人家庭では、年間500時間=12週分も余計に働くようになった)。

だがアメリカ社会で、グローバル化による大きな社会的混乱が起きなかった理由は別にある。

1980年に800ドルだったニューヨーク株価は、ITバブルに沸いた2000年には1万1000ドルへと約14倍に上昇した。これによって富裕層だけでなく、一般労働者や年金生活者の資産も大きく膨らんだ。

ITバブルがはじけると、FRB(連邦準備制度理事会)は大幅に金利を引き下げ、その効果で不動産価格が上昇した。民間金融機関は競ってサブプライムローンを提供し、これまで融資を受けられなかった低所得者層までが“マイホーム”を手にするようになった。

株式投資は、ほとんどの場合、現金資産の範囲でしか行なわれない。それに対してマイホームは、住宅ローンによって高いレバレッジがかかっているため、地価上昇による資産効果はより大きくなる。こうしてごくふつうのアメリカ人が、マイホームの(未実現の)値上がり益を担保にさらに不動産を購入するマネーゲームに狂奔するようになった。

だが2006年にピークをつけたアメリカの住宅価格はバブル崩壊で4割ちかくも暴落し、2000年の水準まで戻ってしまった。これによって多くのひとがマイホームを失ったばかりか、大量の不良債権が金融機関の経営を圧迫して不況を長期化させている。

アメリカのゆたかさを生み出してきたメカニズムは、いまや逆回転を始めてしまった。白人中流層は、自分たちがいつのまにか貧しくなっていることに気づいた。アメリカでは50代でのアーリーリタイアメントが当たり前とされていたが、資産価格の下落で老後の生活設計は崩壊し、おまけに引退までの職の保証すらないのだ。

政治指導者やワシントンの官僚たちが気づかないうちに、貧困層への社会保障に反対し、移民を規制する「小さな政府」で既得権を守ろうとする白人中流層の政治運動ティーパーティが草の根的に広がっていった。それに対して既得権を持たない若者たちは、雇用対策や社会保障の充実、富裕層への増税など「大きな政府」を求めてウォール街を占拠しようとした。

二派の主張は真っ向から対立し、妥協の余地はないが、これは「中流の没落」という共通の現象から生じたコインの裏表なのだ。

(連載「セカイの仕組み」第1回より抜粋)

※マネーポスト2012年新春号

トピックス

お笑いコンビ「ガッポリ建設」の室田稔さん
《ガッポリ建設クズ芸人・小堀敏夫の相方、室田稔がケーブルテレビ局から独立》4月末から「ワハハ本舗」内で自身の会社を起業、前職では20年赤字だった会社を初の黒字に
NEWSポストセブン
”乱闘騒ぎ”に巻き込まれたアイドルグループ「≠ME(ノットイコールミー)」(取材者提供)
《現場に現れた“謎のパーカー集団”》『≠ME』イベントの“暴力沙汰”をファンが目撃「計画的で、手慣れた様子」「抽選箱を地面に叩きつけ…」トラブル一部始終
NEWSポストセブン
母・佳代さんのエッセイ本を絶賛した小室圭さん
小室圭さん “トランプショック”による多忙で「眞子さんとの日本帰国」はどうなる? 最愛の母・佳代さんと会うチャンスが…
NEWSポストセブン
春の雅楽演奏会を鑑賞された愛子さま(2025年4月27日、撮影/JMPA)
《雅楽演奏会をご鑑賞》愛子さま、春の訪れを感じさせる装い 母・雅子さまと同じ「光沢×ピンク」コーデ
NEWSポストセブン
自宅で
中山美穂はなぜ「月9」で大記録を打ち立てることができたのか 最高視聴率25%、オリコン30万枚以上を3回達成した「唯一の女優」
NEWSポストセブン
「オネエキャラ」ならぬ「ユニセックスキャラ」という新境地を切り開いたGENKING.(40)
《「やーよ!」のブレイクから10年》「性転換手術すると出演枠を全部失いますよ」 GENKING.(40)が“身体も戸籍も女性になった現在” と“葛藤した過去”「私、ユニセックスじゃないのに」
NEWSポストセブン
「ガッポリ建設」のトレードマークは工事用ヘルメットにランニング姿
《嘘、借金、遅刻、ギャンブル、事務所解雇》クズ芸人・小堀敏夫を28年間許し続ける相方・室田稔が明かした本心「あんな人でも役に立てた」
NEWSポストセブン
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《真美子さんの献身》大谷翔平が「産休2日」で電撃復帰&“パパ初ホームラン”を決めた理由 「MLBの顔」として示した“自覚”
NEWSポストセブン
不倫報道のあった永野芽郁
《ラジオ生出演で今後は?》永野芽郁が不倫報道を「誤解」と説明も「ピュア」「透明感」とは真逆のスキャンダルに、臨床心理士が指摘する「ベッキーのケース」
NEWSポストセブン
渡邊渚さんの最新インタビュー
元フジテレビアナ・渡邊渚さん最新インタビュー 激動の日々を乗り越えて「少し落ち着いてきました」、連載エッセイも再開予定で「女性ファンが増えたことが嬉しい」
週刊ポスト
主張が食い違う折田楓社長と斎藤元彦知事(時事通信フォト)
【斎藤元彦知事の「公選法違反」疑惑】「merchu」折田楓社長がガサ入れ後もひっそり続けていた“仕事” 広島市の担当者「『仕事できるのかな』と気になっていましたが」
NEWSポストセブン
お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志(61)と浜田雅功(61)
ダウンタウン・浜田雅功「復活の舞台」で松本人志が「サプライズ登場」する可能性 「30年前の紅白歌合戦が思い出される」との声も
週刊ポスト