国内

東電賠償目当てで原発近くに車を置く人 直撃に「うるせえ」

 新聞・テレビにあふれる悲劇や美談だけでは大震災の真実は語れない。真の復興のためには、目を背けたくなる醜悪な人間の性にも目を向けなければならない。原発作業員が働く卑劣な「火事場泥棒」の現場をフリーライター、鈴木智彦氏がレポートする。

 * * *
 2月中旬の午前6時、原発作業拠点・Jヴィレッジ脇の検問に、ボロボロの軽自動車を載せた積載車がやって来た。運転手は警察官に暫定通行証を見せ、警戒区域に入っていった。 ここを過ぎれば警察の監視はない。早朝は警戒区域内のパトロールは手薄だ。お役所仕事の警察官を乗せた大型バスがやってくるまで、あと2時間はある。

 運転手は検問の先にある道の駅に車を停めた。車外に降り、防護服を着込んでいる。装備から考えて、かなり奥まで入る気だろう。車はすぐに発進した。距離をとって後を付けた。

 5キロ、10キロ、ひたすら走り続けた。30分以上走った頃、地図で現在地を確認すると、東京電力福島第一原発から直線距離で約3キロしかなかった。この辺りまで来ると、走っているのは原発作業の車ばかりで、乗員はすべて防護服に全面マスクを着用している。

 積載車が脇道に入ったので尾行を中止し、こちらも車を無人の店舗に停めて待った。1時間後、戻ってきた積載車の荷台に、軽自動車はなかった。再び後ろを走り、警戒区域の検問を出た2個目の信号で、運転手を直撃した。

「原発の近くに車置いてきたのはなぜですか?」

「関係ねぇべ。うるせぇ」

 運転手は強引に窓を閉め、6号線をいわき方面に走って行った。助手席には新品の防護服が数枚と、原発作業員しか入手できないはずの全面マスクが3つあった。おそらく原発作業員だ。

 いわき市内の中古車販売業者が解説する。

「知り合いの業者は原発作業員から、『ローダー(積載車)を貸してくれ』としょっちゅう頼まれている。いたでしょ? 警戒区域に車を置いてくるのは、今年、東電が20キロ圏内に放置された自動車を賠償すると発表したから、一時帰宅で引き上げた車をまた警戒区域内に戻したい人が多いわけ。どんなボロ車でもかなりの金になる。線量の少ない検問のすぐ先には一時帰宅の住民がいるし、除染作業も行なわれているんで、わざわざ奥まで行ったんじゃない? うちにも依頼はあるね。犯罪なので断るけど」

 この悪事に手を染める原発作業員は、その名前も所属会社も分かっている。

 原発作業員の“良からぬ素行”の噂は、昨夏、私が作業員として原発で働いた頃からあった。ATM荒らしや窃盗といった本格的な犯罪の話も耳にした。

 まさかと思っていたら、今年に入って証人を見つけた。作業員から大型液晶テレビをもらったのは都内に住む男性だった。

「親戚がいわき市に住んでて、震災後、よく支援物資を届けに行ったんです。そのお礼にテレビをもらった。あとから聞くと、原発作業員からもらったもの、それも立ち入り禁止区域の民家に押し入って盗んできたものだっていうんです。盗品だったら……私も捕まるんでしょうか?」

※週刊ポスト2012年3月23日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《あなたとの旅はエキサイティングだった》戦力外の前田健太投手、元女性アナの年上妻と別居生活 すでに帰国の「惜別SNS英文」の意味深
NEWSポストセブン
1992年にデビューし、アイドルグループ「みるく」のメンバーとして活躍したそめやゆきこさん
《熱湯風呂に9回入湯》元アイドル・そめやゆきこ「初海外の現地でセクシー写真集を撮ると言われて…」両親に勘当され抱え続けた“トラウマ”の過去
NEWSポストセブン
笑顔に隠されたムキムキ女将の知られざる過去とは…
《老舗かまぼこ屋のムキムキ女将》「銭湯ではタオルで身体を隠しちゃう」一心不乱に突き進む“筋肉道”の苦悩と葛藤、1度だけ号泣した過酷減量
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:
【激太りの近況】水原一平氏が収監延期で滞在続ける「家賃2400ドル新居」での“優雅な生活”「テスラに乗り、2匹の愛犬とともに」
NEWSポストセブン
折田楓氏(本人のinstagramより)
「身内にゆるいねアンタら、大変なことになるよ!」 斎藤元彦兵庫県知事と「merchu」折田楓社長の“関係”が県議会委員会で物議《県知事らによる“企業表彰”を受賞》
NEWSポストセブン
“ボディビルダー”というもう一つの顔を持つ
《かまぼこ屋の若女将がエプロン脱いだらムキムキ》体重24キロ増減、“筋肉美”を求めて1年でボディビル大会入賞「きっかけは夫の一声でした」
NEWSポストセブン
チームを引っ張るドミニカ人留学生のエミールとユニオール(筆者撮影、以下同)
春の栃木大会「幸福の科学学園」がベスト8入り 元中日監督・森繁和氏の計らいで来日したドミニカ出身部員は「もともとクリスチャンだが幸福の科学のことも学んでいる」と語る
NEWSポストセブン
横山剣(右)と岩崎宏美の「昭和歌謡イイネ!」対談
【横山剣「昭和歌謡イイネ!」対談】岩崎宏美が語る『スター誕生!』秘話 毎週500人が参加したオーディション、トレードマークの「おかっぱ」を生んだディレクターの“暴言”
週刊ポスト
”乱闘騒ぎ”に巻き込まれたアイドルグループ「≠ME(ノットイコールミー)」(取材者提供)
《現場に現れた“謎のパーカー集団”》『≠ME』イベントの“暴力沙汰”をファンが目撃「計画的で、手慣れた様子」「抽選箱を地面に叩きつけ…」トラブル一部始終
NEWSポストセブン
母・佳代さんのエッセイ本を絶賛した小室圭さん
小室圭さん “トランプショック”による多忙で「眞子さんとの日本帰国」はどうなる? 最愛の母・佳代さんと会うチャンスが…
NEWSポストセブン
春の雅楽演奏会を鑑賞された愛子さま(2025年4月27日、撮影/JMPA)
《雅楽演奏会をご鑑賞》愛子さま、春の訪れを感じさせる装い 母・雅子さまと同じ「光沢×ピンク」コーデ
NEWSポストセブン
自宅で
中山美穂はなぜ「月9」で大記録を打ち立てることができたのか 最高視聴率25%、オリコン30万枚以上を3回達成した「唯一の女優」
NEWSポストセブン