白澤卓二氏は1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。アンチエイジングの第一人者として著書やテレビ出演も多い白澤氏が、糖尿病とボケの関係について解説する。
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糖尿病がアルツハイマー病の危険因子の一つであることは、以前にも紹介した。それでは、糖尿病を発症する前の糖尿病予備軍の人も、やはりボケやすいのだろうか? 九州大学の環境医学分野の清原裕教授は福岡県久山町に住む60歳以上の認知症のない高齢者1022人を対象に15年にわたる追跡調査を実施した。
追跡調査中に232人が認知症を発症した。糖尿病の診断には「75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)」と呼ばれる方法を実施。空腹時に血糖値が正常でも、75gのブドウ糖を飲んで2時間後の血糖値が高いと、「耐糖能異常がある」として糖尿病予備軍と診断される。
久山町研究では、耐糖能異常を示した高齢者は正常高齢者に比べてアルツハイマー病の発症危険率が60%、糖尿病患者を含めると73%も上昇していることが分かった。
さらに病理解剖された135症例を詳細に解析した結果、経口ブドウ糖負荷試験での2時間値や空腹時の血中インスリン値が高いほど、アルツハイマー病で観察される「老人斑」という「脳のシミ」の数が多かったのである。清原教授は、「食後の高血糖が神経細胞で酸化ストレスを発生させ、老人斑の形成を促進している」可能性を指摘している。
また、糖尿病発症前の高インスリン血症の人でも老人斑の形成促進が確認されたことから、「神経細胞の糖代謝異常そのものが老人斑を蓄積しやすくしている」ともいえるという。
久山町研究では、2005年の時点で既に65歳以上の高齢者の8人に1人が認知症であるが、厚生労働省の推計によると全国で認知症患者は既に300万人を超えている。糖尿病の増加に伴い認知症患者も30年後には800万~1000万人になると推計されている。超高齢化社会を迎える日本において、ボケ防止はまさに喫緊の課題といえるだろう。
※週刊ポスト2012年5月18日号