国内

大赤字のパナソニック 再生の鍵は組織の枠を超えたコラボ

 高度経済成長期を支えたモノづくりの“日本代表”と言えるパナソニックが、2012年3月期決算で7721億円という過去最大の赤字を計上した。その背景の一つには、偏った人事や組織戦略の失敗など、縦割り文化があった。

 しかし“組織硬直”を打破すれば、成功に近づく――そんな事例はある。2005年11月に発売した「ヒートポンプななめドラム洗濯乾燥機」は、事業部の壁がなくなったことで開発されたヒット商品だ。エアコンや冷蔵庫に使うヒートポンプを、洗濯乾燥機に搭載したのはパナソニックが初めてだった。エアコンの冷熱部隊と洗濯機部隊が共同開発したものだ。

 プロジェクトに参加した洗濯機のエンジニアが証言する。「最初は話がかみ合わなかった。同じ会社なのに会うのは初めての技術者ばかりで……。しかし、室外機から外に逃がすエアコンの熱をどう洗濯機で内部循環させるか、時には泊まりがけで一緒に挑戦することで技術の融合ができた」

 その結果、大幅な省エネを実現。多くの消費者に受け入れられた。そして今、同じように組織横断的に取り組まれ、今後のパナソニックを支える1つの柱になりそうなのが、「エネファーム」として販売されている家庭用燃料電池である。

 燃料電池とは、主に都市ガスから水素を取り出し、空気中の酸素と反応させて発電する装置だ。発電時の排熱を給湯に利用する。

 燃料電池の研究そのものは30年以上前から始まっていたが、開発に拍車がかかったのは事業部制がなくなってからだ。商品化に携わった幹部エンジニアが語る。

「燃料電池の原理そのものは19世紀からあった。それなのに実用化が難しかったのは、気体である水素の取り扱いが難しいというだけではない。大型商品のため化学や材料、電気など、幅広い技術が求められるからだ。半導体、システム設計、インバーター、燃焼、電磁調理器、さらには住宅と、各部署のエンジニアの技術と知恵が結集された」

 部品点数は2000点、サプライヤー(納入業者)は300社に及ぶため、総合的な技術とチームワークが必要だったという。

「高い発電効率を実現するのが特に難しかったが、現場は『発電効率を高めた上で手頃な価格を実現したい』と、開発と調達が連携して部品の小型化などを図り、従来品より70万円も安い商品を新たに生み出してくれた」(同前)

 この新しいエネファームは震災後の昨年4月に売り出され、脱原発時代に向けた家庭用のエネルギーとして注目されている。

 今後も、組織を超えた“技術のコラボレーション”が活かされるかどうか、再生のカギはそこにありそうだ。(本文中敬称略)

■文/永井隆(ジャーナリスト)と本誌取材班

※SAPIO2012年11月号

関連記事

トピックス

雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
【天皇陛下とトランプ大統領の会見の裏で…】一部の記者が大統領専用車『ビースト』と自撮り、アメリカ側激怒であわや外交問題 宮内庁と外務省の連携ミスを指摘する声も 
女性セブン
相次ぐクマ被害のために、映画ロケが中止に…(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
《BE:FIRST脱退の三山凌輝》出演予定のクマ被害テーマ「ネトフリ」作品、“現状”を鑑みて撮影延期か…復帰作が大ピンチに
NEWSポストセブン
名古屋事件
【名古屋主婦殺害】長らく“未解決”として扱われてきた事件の大きな転機となった「丸刈り刑事」の登場 針を通すような緻密な捜査でたどり着いた「ソフトテニス部の名簿」 
女性セブン
今年の6月に不倫が報じられた錦織圭(AFP時事)
《世界ランキング急落》プロテニス・錦織圭、“下部大会”からの再出発する背景に不倫騒と選手生命の危機
NEWSポストセブン
国仲涼子が『ちゅらさん』出演当時の思い出を振り返る
国仲涼子が語る“田中好子さんの思い出”と“相撲への愛” 『ちゅらさん』母娘の絆から始まった相撲部屋通い「体があたる時の音がたまらない」
週刊ポスト
「運転免許証偽造」を謳う中国系業者たちの実態とは
《料金は1枚1万円で即発送可能》中国人観光客向け「運転免許証偽造」を謳う中国系業者に接触、本物との違いが判別できない精巧な仕上がり レンタカー業者も「見破るのは困難」
週刊ポスト
各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
《空腹でもないのに、ただただ人を襲い続けた》“モンスターベア”は捕獲して山へ帰してもまた戻ってくる…止めどない「熊害」の恐怖「顔面の半分を潰され、片目がボロり」
NEWSポストセブン
カニエの元妻で実業家のキム・カーダシアン(EPA=時事)
《金ピカパンツで空港に到着》カニエ・ウエストの妻が「ファッションを超える」アパレルブランド設立、現地報道は「元妻の“攻めすぎ下着”に勝負を挑む可能性」を示唆
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“最もクレイジーな乱倫パーティー”を予告した金髪美女インフルエンサー(26)が「卒業旅行中の18歳以上の青少年」を狙いオーストラリアに再上陸か
NEWSポストセブン
大谷翔平選手と妻・真美子さん
「娘さんの足が元気に動いていたの!」大谷翔平・真美子さんファミリーの姿をスタジアムで目撃したファンが「2人ともとても機嫌が良くて…」と明かす
NEWSポストセブン