各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
熊被害に関するニュースが途切れる気配がない。11月7日朝、山形県米沢市の温泉旅館に熊による“立てこもり”が発生した。市の判断により「緊急銃猟」で駆除されたが、一時は旅館内に経営者らが取り残されており、周囲は緊迫した空気で張り詰めた。
山林で密かに暮らしていたはずの熊が人間の居住地域に現れるのはなぜなのか。そこには、日本特有の事情がある────。より凶暴化した熊が日本各地で出没する背景について、別冊宝島編集部編『アーバン熊の脅威』から、一部抜粋・再構成して紹介する。
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熊を神聖視する文化・風習が残る日本
なぜ日本は、世界でも類を見ない熊被害大国となったのか。
現在日本には、北海道にヒグマが推計で1万1700頭、本州と四国には4万4000頭前後のツキノワグマが生息するとされ、全国トータルで最大5万6000頭程度が生息すると考えられている。
北米大陸の熊の生息数は100万頭近いともいわれ、それと比べれば日本が特別に多いわけではない。だが北米では、人間の居住域の広がりとともに森林はどんどん切り拓らかれ、それに伴い熊は駆除される。そのため熊の生息域は限定され、人間と熊の接触する機会はきわめて少ない。
中国でも北米と同様の理由で熊の駆除は進められている。同時に、熊の掌は高級食材として、胆嚢は漢方薬(熊胆)として珍重されているため、民間人の狩猟対象となり、生息数は減少の一途をたどっている。
日本の場合は国土そのものが狭く、地勢的に人間の居住区と熊の生息域が隣接している。「熊」という言葉が「カミ」の語源だとする説があるように、熊を神聖視する文化・風習が残っており、人間に害を及ぼさないかぎり、無闇に熊を駆除することはしない歴史があった。そんな日本において、明治初期からの北海道開拓期には、新しい土地を求めて人間のほうから熊の生息域に踏み込んでいった。そのことで、日本人は多大な人的被害を熊から受けることになってしまった。
