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雇用制度改革会議 議論の中心は「金銭解雇ルール」の創設

 安倍晋三首相の賃上げ要請に、「アベノミクスに協力する」といち早く打ち出したのはローソンの新浪剛史・社長だ。同社は社員の年収を3%(平均15万円)引き上げることを決めた。

 政府側は「大変ありがたい」(甘利明・経済再生相)と持ち上げたが、今のところローソンに続いたのはセブン&アイ・ホールディングス、ファミリーマートなど、業績のいいコンビニ業界などにとどまっている。

 賃上げの広告塔になった新浪氏は安倍首相が鳴り物入りで設置した「産業競争力会議」の民間人委員の1人。実はこの会議では、とんでもない労働法制改革が話し合われている。

 さる3月6日、産業競争力会議の「雇用制度改革」分科会の第1回会合が開かれた。そこで議論の中心になったのが、経済界の悲願である「金銭解雇ルール」の創設だ。

「日本では企業が社員を整理解雇する場合には4要件(*注)と呼ばれる厳しい制約がある。産業競争力会議でテーマになっている金銭解雇ルールとは、企業が『転職支援金』などの名目で一定の金額さえ支払えば自由に社員のクビを切れるようにするもので、実現すれば、サラリーマンはいつ会社から『辞めてほしい』と通告されるかわからない不安にさらされることになります」(ジャーナリスト・溝上憲文氏)

 この雇用制度改革は安倍首相にとって6年前に失敗したいわくつきの政策だ。

 厚労省は第1次安倍政権下の2007年の労働契約法制定の際、「年収の2倍程度」以上の補償金を支払うことで解雇をめぐる労使紛争を解決する規定を盛り込む方針だったが、参院選の敗北で叶わず、その後、民主党への政権交代で議論はストップしていた。

 政権に復帰した安倍首相はサラリーマンに賃上げの夢を振りまく一方で、「産業競争力強化」の名の下にいよいよその“クビ切り自由化法”制定に動き出したのである。

「年収の2年分」が金銭解雇の基準になるとすれば、年収500万円のサラリーマンが定年まで会社に勤めようと考えていても、会社が正規の退職金に加えて、1000万円の転職支援金を支払うからといえば、不本意でも退職しなければならない。

 リストラ適齢期の40代後半や50代のサラリーマンにとって、それまでと待遇が同じ水準の再就職先を探すのは容易ではない。

「年収の2年分」は失業中が長引けば食いつぶしてしまうし、再就職できても給料ダウンでその後の生活費に消えるかもしれない。

「金銭解雇ルール」は日本のサラリーマン社会を支えてきた終身雇用を根底から覆す制度変更といっていい。

【*注】1:人員整理の必要性(企業の維持存続が危うい程度、企業が客観的に高度の経営危機下にある場合)、2:解雇回避努力義務の履行(役員報酬の削減、新規採用の抑制等によって、整理解雇を回避するための相当の経営努力をしたかどうか)、3:被解雇者選定の合理性、4:手続きの合理性(説明や協議など納得を得るための手順を踏んでいない整理解雇は、他の要件を満たす場合であっても無効とされるケースも多い)の4つ。1979年の東京高裁判例で示された。

※週刊ポスト2013年3月29日号

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