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金正恩氏は米との戦争も辞さぬリスクの高い瀬戸際外交に出た

 北朝鮮が強行した3度目の核実験は、金正恩が初めて米国に仕掛けた命懸けの「チキン・ゲーム」だとコリア・ウォッチャーの第一人者、辺真一(ピョン・ジンイル)氏は言う。その「チキン・ゲーム」に巻き込まれる韓国のリスクとは。辺氏が解説する。

 * * *
 金正恩が最高指導者として初めて、そして命を懸けた「チキン・ゲーム」に打って出た狙いは何か。

 金正日も生前、核とミサイルで国際社会を揺さぶり、米国に対して「瀬戸際外交」を展開してきた。これまでの「瀬戸際外交」は、核を持つぞと脅して自ら崖っぷちに立ちながら、体制維持と経済支援を取り付けてきた。

 今回は、すでに長距離ミサイル発射にも成功し、核も保有した状況で、制裁を主導する米国、日本、韓国を戦争に追い込む「瀬戸際外交」に転じた。3度目の核実験後、国連安保理の非難声明を受けて、北朝鮮は次なる報復を準備しているとの内容の声明を発表している。

 一方で最高権力機関の国防委員会が米国を標的にすると明言したことは、米国に自衛権による先制攻撃の口実、大義名分を与えた。しかも、北朝鮮北東部の日本海に面した舞水端里のミサイル発射場では新たな大型発射台が設置され、既存の設備の改修も進められていると言われる。過去、ノドンやテポドンのミサイル試験発射を行なった場所だ。

 北朝鮮の次なる挑発行為が大型ミサイル発射であれ、再度の核実験であれ、米国に対して「さぁ、攻撃してみろ」と言わんばかりの動きである。

 2012年4月、米太平洋軍のロックリア司令官は「北朝鮮の3度目の核実験を阻止するためにあらゆる選択肢を検討している」と発言。当時は核施設への攻撃も辞さないという含みを持たせていた。

 しかし、核施設への攻撃は、韓国、日本だけでなく、近隣諸国への核汚染の影響が心配されるだけに、ミサイル発射台への局地攻撃が米国にとって現実的な選択肢となっている。

 米国が北朝鮮のミサイル基地を攻撃すれば、当然北朝鮮は反撃に出る。戦争が勃発するが、それが全面戦争となるか局地戦となるか、いずれにせよ国際社会はその戦争にストップをかける。それこそが北朝鮮が狙っている新しい瀬戸際外交なのだ。

 朝鮮半島は現在に至るまで休戦状態が続いている。1950年に朝鮮戦争が勃発し、1953年7月27日、休戦協定が成立した。この休戦協定を平和協定にすることが目的と見ていい。

 平和協定は、北朝鮮を攻撃しないという軍事的な保証であり、米国との国交正常化も含まれる。金正恩の祖父である金日成の時代から平和協定の締結は一貫した悲願だった。

 金正恩は休戦協定(北朝鮮では戦勝記念日)60周年にあたる今年7月27日を「輝かしい成果」で迎えると宣言している。すなわち、平和協定を締結して外交勝利で迎えるということである。

 もちろん、米国との戦争で、金正恩がイラクのサダム・フセインのような道を辿るかもしれない。北朝鮮が崩壊する可能性もあるだろう。だが、金正恩はリスクの高い瀬戸際外交に打って出たと見るべきだ。

※SAPIO2013年4月号

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