ビジネス

爆弾低気圧で故障相次いだ風力発電所 風吹けど儲からぬ事情

 風が吹いても桶屋どころか事業主体すら儲からない――とは何ともお粗末な状況だ。

 日本列島を次々と襲う爆弾低気圧は、各地に風速20メートル級の“春の嵐”を巻き起こしている。ところが、風が強ければ強いほど儲かるはずの風力発電所で、風車の羽根が落下する事故が相次いだ。3月には京都府営の「太鼓山風力発電所」、4月には中部電力系の「ウインドパーク笠取(三重県)」で羽根の脱落や支柱の損傷が見つかった。

 ウインドパークの風力発電機に至っては、風速70メートルまで耐えられる設計に対し、事故当時の風速計は最大約28メートルしか観測していなかったという。なぜ、このようなことが起きるのか。

 エネルギー産業に詳しい一橋大学大学院商学研究科教授の橘川武郎氏は、「そもそも日本の地理的条件が風力発電を難しくしている」と指摘する。

「地球は偏西風の影響でいちばん安定的な風は西から吹きます。だから大陸西海岸に位置するヨーロッパは風力発電に適しています。でも、日本は大陸の東岸近くに位置しているので、安定した風況が望めません。そのうえ台風も多く、度重なる暴風雨が発電機の耐久性を阻害している可能性はあります。2003年9月に沖縄県・宮古島を襲った台風では、沖縄電力の6基の発電機がすべて壊されました」

 恵みの風も程度が問題ということか。そこで今、陸よりも期待されているのが「洋上風力発電」だ。

 これまで日本では、遠浅の場所が少ないために海底に土台を置いて固定する「着床式」のインフラ整備が遅々として進まなかった。だが、ここにきて土台要らずの「浮体式」の実証実験が長崎県五島市沖や福島県沖など、あちこちで本格化している。“浮いた風車”の行方を見守るのは、東芝、JFEスチール、三井造船、三菱重工業など復活をかける重厚長大産業のメインプレーヤーたちである。

「平成32年に洋上風力発電の能力を100万キロワット(現在の発電能力の40倍超)にしたい」と石原伸晃環境相も鼻息が荒いが、当の国の財政支援がなければ空論に終わる可能性もある。前出の橘川氏はいう。

「太陽光発電と同じで、いくら設備が充実しても送電線が近くまで敷かれていなければ電力を有効に使えませんし、トータルのコストは高くついてしまいます。ところが、インフラ整備をすべき電力会社のほとんどが赤字を埋める値上げに精一杯で、とても設備投資にまでカネが回らないのが現状」(前出・橘川氏)

 仮に、インフラ整備のコストを加味して再生エネルギーの買い取り価格が上がれば、再び企業や一般家庭の電力料金に跳ね返るため、よほどの将来性を示さない限り、国民の合意は得られないはず。

 さらに、洋上風力発電には参入企業の意欲を失わせるような逆風も吹き荒れる。

「風車の羽根に鳥が激突する『バードストライク』はじめ環境影響評価(アセスメント)が厳しく、風力発電の事業計画から営業運転まで4~9年の期間を要したり、立地によっては漁業権の侵害とみなされて高い補償を要求されたりもします。こうした課題を一つずつクリアするのは容易ではありません」(橘川氏)

 市場調査会社の富士経済によると、洋上風力発電の全世界の市場規模は、2011年に3864億円だったのが2020年には4兆3442億円にまで膨れ上がると予測している。だが、こと日本においては、民間の企業努力だけでは十分な風は起こせそうにない。

関連記事

トピックス

万博で身につけた”天然うるし珠イヤリング“(2025年8月23日、撮影/JMPA)
《“佳子さま売れ”のなぜ?》2990円ニット、5500円イヤリング…プチプラで華やかに見せるファッションリーダーぶり
NEWSポストセブン
次の首相の後任はどうなるのか(時事通信フォト)
《自民党総裁有力候補に党内から不安》高市早苗氏は「右過ぎて参政党と連立なんてことも言い出しかねない」、小泉進次郎氏は「中身の薄さはいかんともしがたい」の評
NEWSポストセブン
阪神の中野拓夢(時事通信フォト)
《阪神優勝の立役者》選手会長・中野拓夢を献身的に支える“3歳年上のインスタグラマー妻”が貫く「徹底した配慮」
NEWSポストセブン
9年の濃厚な女優人生を駆け抜けた夏目雅子さん(撮影/田川清美)
《没後40年・夏目雅子さんを偲ぶ》永遠の「原石」として記憶に刻まれた女優 『瀬戸内少年野球団』での天真爛漫さは「技巧では決して表現できない境地」
週刊ポスト
朝比ライオさん
《マルチ2世家族の壮絶な実態》「母は姉の制服を切り刻み…」「包丁を手に『アンタを殺して私も死ぬ』と」京大合格も就職も母の“アップへの成果報告”に利用された
NEWSポストセブン
チームには多くの不安材料が
《大谷翔平のポストシーズンに不安材料》ドジャースで深刻な「セットアッパー&クローザー不足」、大谷をクローザーで起用するプランもあるか
週刊ポスト
ブリトニー・スピアーズ(時事通信フォト)
《ブリトニー・スピアーズの現在》“スケ感がスゴい”レオタード姿を公開…腰をくねらせ胸元をさすって踊る様子に「誰か助けてあげられないか?」とファンが心配 
NEWSポストセブン
政権の命運を握る存在に(時事通信フォト)
《岸田文雄・前首相の奸計》「加藤の乱」から学んだ倒閣運動 石破降ろしの汚れ役は旧安倍派や麻生派にやらせ、自らはキャスティングボートを握った
週刊ポスト
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン
秋篠宮家の長男・悠仁さまの成年式が行われた(2025年9月6日、写真/宮内庁提供)
《凜々しきお姿》成年式に臨まれた悠仁さま 筑波大では「やどかり祭」でご友人とベビーカステラを販売、自転車で構内を移動する充実したキャンパスライフ
NEWSポストセブン
自身のYouTubeで新居のルームツアー動画を公開した板野友美(YouTubeより)
《超高級バッグ90個ズラリ!》板野友美「家賃110万円マンション」「エルメス、シャネル」超絶な財力の源泉となった“経営するブランドのパワー” 専門家は「20~30代の支持」と指摘
NEWSポストセブン
志村けんさんが語っていた旅館への想い
《5年間空き家だった志村けんさんの豪邸が更地に》大手不動産会社に売却された土地の今後…実兄は「遺品は愛用していた帽子を持って帰っただけ」
NEWSポストセブン