ビジネス

キリン澄みきり開発者「安いから我慢、の本音覆したかった」

 漸減傾向が続くビール市場の中で唯一売上を伸ばしている新ジャンル。今や家庭用シェア約50%を占める「家飲みの定番」だが、「後味が今ひとつ」などの理由から、消費者が不満を持つことも多い。そこで登場したのが『キリン 澄みきり』だ。5月14日の発売以来評判を呼び、一週間後には増産を発表するほど売れ行きも好調だ。消費者から『澄みきり』が高評価を獲得できているのは、なぜなのか。

「本当はみんなビールを飲みたいんです。でも“安いから新ジャンルで我慢しよう”というのが本音。このイメージを一新すべく、『澄みきり』の開発は最初から気合いが入っていました」

 新商品開発グループの鈴木伸氏によれば、新ジャンル特有の後味や薄っぺらいといわれる味わいを改善するための技術革新は水面下で進んでいたが、それに見合った価値付けができていない。それが一番の課題だったという。

「自分たちの生活に一番近いところで頑張ってくれる企業って、やっぱり応援したくなるじゃないですか。例えば、軽自動車のN BOXを開発したホンダさんや、生麺製法にこだわり即席麺の完成形を目指したマルちゃん正麺の東洋水産さんのように、ぼくらもお客さんに一番身近な商品の新ジャンルで、最大限の努力を払うべきだと思ったんです」(鈴木氏)

 そして、身近な商品として、どんな人に、どんな場面で味わってもらいたいかを想像しながら開発をすすめた。

「『澄みきり』は、主要なターゲットに据えている30代にとって、仕事で疲れて帰宅したときにさりげなく寄り添う飲み物でありたいと考えました。原材料も大豆ではなく、使い方を熟知した麦100%(※麦芽・大麦・大麦スピリッツを使用)を採用、麦の旨味を引き出しつつ、雑味のない澄みきった味わいを追求しました。

 麦を多く使えば旨味が増しておいしくなりますが、雑味も増えて飲みにくくなる。そこで今回は、仕込みの方法を変えたり澄んだ味わいを引き出す新酵母を採用し、大麦から雑味が出ないよう工夫を凝らしました。“難しい”といったものの、おいしいものができたので、自分でもびっくりしています」

 と、醸造を担当した新商品開発グループ主務の須田崇氏は笑う。難しい課題をのりこえられたのは、『ラガー』『一番搾り』『淡麗』という看板商品を手がけてきた須田氏の知見と経験があればこそだった。

 キリンビールは、100年を超えるその歴史のなかで、さまざまな商品を生み出しながら、独自の技術で旨さを実現してきた。もっとも古くは今から125年前、キリンビールの前身、ジャパンブルワリーによって1888年に発売された、ホップの使い方に特徴がある『ラガービール』から始まっている。

 1990年には、飲みやすさと麦100%を両立させている点が『澄みきり』と共通する、一番搾り麦汁だけを使ってつくった『一番搾り』が生まれた。そして1998年には、今や発泡酒No.1ブランド『麒麟淡麗<生>』が発売された。このときの大麦を扱う技術は『澄みきり』の開発にも生きている。さらに2005年には、原料に麦や麦芽を使わず大豆たんぱくでつくった新ジャンル『のどごし<生>』が発売され、独自の特許技術で旨さを実現した。

 そして2013年、これら伝統商品を開発、製造してきた技術の蓄積が結集され、『澄みきり』が誕生した。

「ぼくらが意識しているのは新ジャンル全体の価値を底上げし、自信を持って選んでもらえる商品をつくること。それ以外に狙いはありません」(鈴木氏)

 新ジャンルも値段で選ぶ時代から品質で選ぶ時代へ。『澄みきり』はそんな時代の開拓者なのかもしれない。

関連記事

トピックス

結婚生活に終わりを告げた羽生結弦(SNSより)
【全文公開】羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんが地元ローカル番組に生出演 “結婚していた3か間”については口を閉ざすも、再出演は快諾
女性セブン
「二時間だけのバカンス」のMV監督は椎名のパートナー
「ヒカルちゃん、ずりぃよ」宇多田ヒカルと椎名林檎がテレビ初共演 同期デビューでプライベートでも深いつきあいの歌姫2人の交友録
女性セブン
NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン