映画監督の大島渚さん(享年80)を17年に及ぶ介護ののち、2013年1月に看取った妻・小山明子さん(79才)。そして、2012年10月に急逝した流通ジャーナリストの金子哲雄さん(享年41)の妻で、文庫本『金子哲雄の妻の生き方 夫を看取った500日』を上梓した金子稚子さん(46才)。配偶者を看取ることから見えてきたものについて2人が語った。
小山さん:大島は映画を撮る時以外は書斎で本を読んだり、ものを書いたりして、家にいるんです。私がドラマの仕事で外に出ていると、ウイスキーを飲みながらいつも帰りを待っていてくれた。そして私のたわいない話を1時間でも2時間でもうんうんって聞いてくれました。聞けば“ぼくは仕事の後で必ず飲んで帰る。でも、あなたはまっすぐ家に帰ってくるから、ストレス発散する場所がない。
だからぼくが聞いてあげようと思った”って。彼に充分愛されたという実感があったから、私は介護生活が嫌じゃなかったんです。だからこそ、17年にわたる介護もやりきれた。
――小山さんは、“やりきったから思い残すことはない”とくり返し言ってきた。
小山さん:だから私、お葬式でもそんなに泣かなかったんですよ。もちろん悲しかったですけど、ずっと覚悟をしてましたから。だけど、亡くなって3か月後、自由が丘のレストランに入ったら老夫婦がお酒を飲みながら仲良くご飯を食べている姿を見て、思わず涙がこぼれました。“ああ、私が望んでいた本当の幸せはこれだった”って涙が止まらなくなってしまって。
介護の最中もずっと“今のままで幸せ”って自分にいい聞かせてきた。介護もやりきったからこれでいいといい聞かせてきたのよね。だけど、日常的に夫婦がお食事をしてる、何気ない会話をしてる、それが本当の幸せだったと思ったら涙が出たの。私にはそれが叶わなかったから。
金子さん:私は、ちょっとした買い物をしに近所のイオンに出かけた時、金子が大好物だったグリコの『アーモンドピーク』が並んでいて。病気になってからもずっと食べたがっていたんですが、リニューアルがあったためか、出回っていなくて。でもその日はいちばん目立つ位置に陳列されてました。
並ぶチョコレートを見た瞬間、突然悲しみが襲ってきたんです。あんなに食べたがっていた夫はもうこの世にはいないんだって。大声をあげて泣いたのは、金子の病気が発覚して初めてでしたね。金子の気持ちに精いっぱい応えたという意味では、1年半の闘病生活に悔いはありません。でも、本当はもっと夫婦でこうしたかったという気持ちは残ります。
※女性セブン2014年2月20日号