明らかになった「契約」。内容も唖然とする他ないものだった。中国の情勢に詳しい拓殖大学教授の富坂聰氏がレポートする。
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今年、中国の公務員試験の応募者が減少したことが話題となったが、その理由の最も大きなものが〝うま味〟がなくなったことだとされる。
習近平体制の下で進められる「ぜい沢禁止令」により公費の飲み食い、出張が禁じられ、さらに反腐敗キャンペーンにより賄賂を受け取りにくくなったことが大きく響いたということだ。
ポケットが寂しくなったのに加え、習近平体制では「生活腐敗」にも厳しい目が向けられている。その典型が、愛人によって夜の動画を公開されてしまった重慶市の役人・雷政富の事件が有名だ。発覚すれば民意を気にして即座に処分される多くの役人たちにとって雷政富事件は他人事ではなかったはずだ。
そんな世相を反映してか、4月25日付『都市快報』は、ある役人が愛人との間に詳細な契約書を作成してサインさせていたという記事を掲載した。
タイトルは、〈55歳の官僚が愛人に承諾書 週に4回の関係 妻には絶対に会いに行かない〉。
ここまで書かれていれば、記事の中身を読まなくても想像できる。実際、それ以上の内容ではないのだが、驚いたのは情報提供者である。こうした情報が公になるのは、たいてい痴情のもつれの果てに女性が暴露することだが、今回は本人が直接公開したものではないということ。実は、事件の舞台となった浙江省衢州市紀律検査委員会の関係者からの提供なのだという。
インターネットで気軽に告発でき、さらに当局も迅速に対応する。時代というほかない現象だ。
民事制裁を免れなかったこの官僚はすでに処分済みということだが、このケースによってまたさらに中国の官僚たちは委縮することだろう。それにしても愛人の行動を制限する契約書が全部で30枚とは、そりゃいくらなんでも細かすぎたのかも。