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『情熱大陸』Pが語る仕事の流儀 ひやっとしそうな質問する等

 1998年に放送が開始され、5月初旬には800回記念の特別企画がオンエア。17年目に突入した人間密着ドキュメンタリー『情熱大陸』(TBS系)の5代目プロデューサーとして活躍する福岡元啓さんが、『情熱の伝え方』(双葉社)を上梓した。

 就職氷河期に補欠入社で放送局にすべり込み、お荷物社員、窓際予備軍と崖っぷちを歩いてきた福岡さんが、経験から培ってきたバイタリティーとフットワークの秘密を明かす本書。

 この人気長寿番組のプロデューサーに就任するまでの、そして就任してからの、彼自身が体を張って身につけた仕事術が、番組制作の舞台裏とともに綴られている。どんな熱いエピソードが飛び出すかと思えば、意外にも、交渉失敗話や取材でうまくいかなかったトホホな話が多い。

「それしか書くことがなかったんですよ。イメージ壊してすみません」(福岡さん・以下「」内同)

 番組の放送時間はわずか30分。取材対象が超有名人であれば、当人も気づいていなかったような意外な一面をすくい上げ、まだ無名な市井の偉人であれば、その凄みを際立たせる。

「企画は月に100本は集まります。そこから、“今見るべき人、今知ってほしい人”を選んでいく。歴々の先輩プロデューサーのような目利きではないけれど、報道出身の強みで、タイムリー感のアンテナやフットワークのよさからくる、カンみたいなものはあるのかなと思っています」

 その時放送することに価値があるかどうかにこだわる。

「イベントが中止になった、代表選考から落ちたなど、予想外の状況になりオンエアを差し替えるか否か考えることも。編集もギリギリまで粘るので、“今週、やばい”と思うことはしょっちゅうです」

 制作の現場は、決して和気あいあいとした雰囲気ではない。

「むしろギスギスしてますよ。“おれはこう思うけど、おまえはどうなんだ”って侃々諤々(かんかんがくがく)。逆に、沈黙がずーっと続くときも。清濁併せのんで、“この部分で同意できればいいよね”という、運命共同体に近い感じです」

 星野源や綾野剛など、いわゆる旬な人物の回は、もちろん視聴者からの反応が大きい。だが、無名であっても、予想以上の反響を生む回もある。

「アメリカのスター発掘番組で1位を勝ち取ったパフォーマーの蝦名健一さんや、北海道の鮨屋『一幸』の工藤順也さんなどはそうでした。番組を作る上で、30分に1か所でも、見ている人が“へえ~”と思う部分を撮れるかが勝負。極論をいえば、そのワンシーンのために30分すべてをかけたと思われればいい。なので、それを撮らせてくれない人は、たとえ時の人でも撮影を断念します」

 被写体の機嫌を損ねるのではないかと、ひやっとするような質問もぶつける。

「ぼくがよく言うのが、片手には花束、片手にはナイフを持って取材する。両手に花束で取材した内容だと、見ている方が冷めちゃうんですよ」

 ゴールデンボンバー・鬼龍院翔の回は、「今年も紅白出場ですね。去年と同じ曲ですね」というきわどいツッコミから始まっていた。だが、それをさらりとかわす鬼龍院の表情は撮り逃さない。

「カッコ悪く見える毒がほんの少し入っている方が、その人のいい部分がより際立つものなんです」

 本書は、華やかな世界に身を置きながら泥くさくサバイバルをしてきた著者ならではの一家言がたっぷり。〈謝罪すべきときにきちんと謝れるのは大人の仕事〉〈自信がないから粘る、がんばれる〉等々、多彩な人間と真正面から向き合ううちに感じた、人間関係づくりの哲学ともいうべき内容に、いつの間にか元気をもらっている。

「執筆にあたっては、久しぶりに現場のディレクター気分を味わいました。編集者からは“これじゃ伝わらないですよ”とダメ出しされて(笑い)。普段は逆の立場なんです。ディレクターが撮ってきたVTRを見て、“これでいいの?”とか言っているので。書いている間中、ずうっと“ディレクターってえらいなあ”とつぶやいていました」

※女性セブン2014年6月5日号

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