都内在住40代前半のA氏は最近、通勤電車で読んでいる新聞の文字が読みにくくなった。少し離してみると、ぼやけていた文字がはっきり見える。「これはもしや……」と思い、帰宅時に100円均一ショップで老眼鏡を試すと、いつもの距離でもよく見える。
「この歳で老眼か。俺は老いたのか……」
A氏はうなだれた。このまま進行すると、日常生活さえままならなくなるのではないか。もしかして重篤な病気につながるのではないか──と心配する人も少なくない。
避けられない加齢現象とはいえ、努力によって発症年齢を遅らせたり、進行を食い止めることはできる。日本眼光学会理事で、梶田眼科院長の梶田雅義氏がいう。
「有効な予防法は長時間同じ距離のものを見続けないことです。一日中パソコンを使ってデスクワークをする人は10分間に1度、1~2秒間は遠くにピントを合わせる習慣をつけましょう。ドライバーなど常に遠くを見る職業の人は、逆に近くにピントを合わせる習慣をつける。そうすれば水晶体の硬化を遅らせることができます」
それでも老眼の症状が出れば「老眼鏡」の助けを借りることになるが、その使い方を工夫すれば進行を遅らせる効果がある。老眼研究会世話人で、みなとみらいアイクリニック理事長の荒井宏幸氏の説明。
「老眼鏡をかけっぱなしにしていると水晶体の厚みを調整している筋肉が使われなくなり、ピントを合わせる機能はますます衰えてしまいます。すると、わずか数年で近くがほとんど見えなくなるほど進行してしまう。
そのため、老眼の初期は、暗いところにいる時や、デスクワークや読書など手元を見る時に限って使用すべきです」
ただし、自覚症状が出ているにもかかわらず、「自分はまだ若いはず」と見栄を張って「老眼鏡」を頑なに拒むことはかえって良くない。
老眼鏡を使わずに読書などで近くを見続ければ水晶体や毛様体に負担がかかり、眼精疲労を引き起こす。そうなれば、激しい頭痛や肩こり、吐き気やめまいといった症状に悩まされるリスクが高まる。
前出・梶田氏によれば、老眼にもかかわらず老眼鏡を全くかけなかったために、自律神経失調症になってしまった症例もあるという。
※週刊ポスト2014年8月29日号