羽田や成田空港に発着する航空機が横田空域を避ける方法は、迂回するか飛び越えるかのどちらかしかない。五輪となれば、中国や韓国などアジア方面からの訪日客が急増する。それらの国と羽田を結ぶ便は横田空域の南側を迂回するか飛び越えるルートを取る。横田空域の高度は階段状で、最高2万3000フィート。
国内線の飛行高度は水平飛行時でも3万3000フィート(約1万メートル)程度だから、羽田に近接するこの空域を飛び越えるのは簡単ではない。
例えば羽田から北京、上海、ソウルなどへの便や、国内では北陸や山陰方面への便の場合、離陸後そのまま西に向かうと高度を上げるための“助走”が足りず、横田空域の壁に“衝突”してしまう。そこで、まず東京湾上空をグルッと旋回して高度を上げてから、目的地に向けて横田空域の上を通る。その分、時間を無駄にするとともに燃料費も余計にかかる。
もちろんこうしたロスは航空運賃に上乗せされ、利用客が負担することになる。日本政府は過去、横田空域の返還を繰り返しアメリカに求め、部分的に返還されてきた(それにより階段状になった)。1992年に空域の約10%、2008年に約20%が返還されるなどしてきたが、まだ大部分が米軍の管制下に置かれている。
それでも2008年に20%返還された時は、羽田から西に向かう便の飛行時間は平均3分短縮された。燃料費は年間約60億円削減された計算になる。
「もし全域返還されれば、大阪国際空港(伊丹)までなら現状50分程度のところ、30分近くで着くようになるでしょう。福岡や沖縄も、今より20分は短縮されるはずです。燃料費も浮き、年間で数百億円規模のコストが削減できると考えられます」(前出・秀島氏)
※週刊ポスト2014年10月10日号