国内

安倍首相はなぜ門田隆将氏の「狼の牙を折れ」を激賞したのか

「ページを繰る手が止まらない」

 安倍晋三首相がそんな言い方で”激賞”したのが『狼の牙を折れ 史上最大の爆破テロに挑んだ警視庁公安部』(門田隆将著・小学館刊)である。11月2日朝、自身のFacebookからの発信だった。安倍氏はこう続けている。

〈左翼暴力集団が猛威をふるい、平然と人の命を奪った時代、敢然と立ち向かった人たちがいた。その執念の物語でもあります。朝日新聞の吉田調書報道が捏造であると最初に告発し、勇気を持って巨大組織に論戦を挑んだ門田隆将氏渾身の作品。お薦めです〉

 同書は2013年10月に刊行されたノンフィクション作品である。1974年8月30日に東京・丸の内で起こった三菱重工爆破事件。ダイナマイトおよそ700本分という爆弾の威力で、死者8名、重軽傷者376名の惨劇となったこの事件の犯行声明を出したのが、「東アジア反日武装戦線”狼”」だった。彼らは政治闘争の名を借り、連続11件の企業爆破を繰り返した。

 この謎の犯人グループに真っ向から勝負を挑み、追い詰め、爆破事件から9か月後に一網打尽としたのが警視庁公安部だった。門田氏は当時の捜査官を数年にわたって訪ね歩き、実名での証言を得て、犯人逮捕までの全貌を明らかにした。

 では、安倍氏はなぜ今、この本を手にとったか。

 どうやら直前の国会での答弁が影響しているようだ。全国紙政治部記者が解説する。

「小渕優子、松島みどりという看板女性閣僚を政治資金問題で失い、後任の宮沢洋一経産相にもSMバーへの政治活動費の支出が発覚した。政治とカネで揺さぶられ続ける官邸サイドが、反撃の狼煙としたのが民主党の枝野幸男幹事長の政治献金だった」

 安倍氏は10月30日の衆院予算委員会で、革マル派との関係が指摘される連合傘下のJR総連やJR東労組から枝野氏が政治献金を受けていることを問題視して批判した。11月1日のFacebookでは秘書名義で、JR総連やJR東労組について、民主党が政権をとっていた鳩山内閣時代に政府として「影響力を行使し得る立場に、革マル派活動家が相当浸透している」と認めた団体であると説明。革マル派について「極左暴力集団であり‥‥殺人事件等、多数の刑事事件を引き起こしている」とした政府答弁書に枝野氏が大臣として署名していることも付記している。

 これに対し枝野氏は、献金は合法だとし「何ら批判される筋合いはない。これこそ誹謗中傷そのものではないか」と反論した。

「政治とカネ問題は団扇など配布物の解釈などをめぐってどんどん些末な方向へ流れつつあった。政権の求心力を保つためにも、官邸としては、視点を変える必要に迫られていた」(前出・政治部記者)

 政権批判の急先鋒である野党幹事長の枝野氏の”背景”に思いを巡らすうちに浮かんだのが『狼の牙を折れ』だったということなのか。

 著者である門田隆将氏は以下のようにコメントしている。

「突然のことで驚いている。『知名もなく、勇名もなし』の思いで捜査にあたった人々の姿を書き残さなければとの一心でまとめあげた本。一国の総理が深く読み込んでくれたことについては光栄に思います」

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《大谷翔平が“帰宅報告”投稿》真美子さん「娘のベビーカーを押して夫の試合観戦」…愛娘を抱いて夫婦を見守る「絶対的な味方」の存在
NEWSポストセブン
令和最強のグラビア女王・えなこ
令和最強のグラビア女王・えなこ 「表紙掲載」と「次の目標」への思いを語る
NEWSポストセブン
“地中海の楽園”マルタで公務員がコカインを使用していたことが発覚した(右の写真はサンプルです)
公務員のコカイン動画が大炎上…ワーホリ解禁の“地中海の楽園”マルタで蔓延する「ドラッグ地獄」の実態「ハードドラッグも規制がゆるい」
NEWSポストセブン
『週刊ポスト』8月4日発売号で撮り下ろしグラビアに挑戦
渡邊渚さん、撮り下ろしグラビアに挑戦「撮られることにも慣れてきたような気がします」、今後は執筆業に注力「この夏は色んなことを体験して、これから書く文章にも活かしたいです」
週刊ポスト
強制送還のためニノイ・アキノ国際空港に移送された渡辺優樹、小島智信両容疑者を乗せて飛行機の下に向かう車両(2023年撮影、時事通信フォト)
【ルフィの一味は実は反目し合っていた】広域強盗事件の裁判で明かされた「本当の関係」 日本の実行役に報酬を支払わなかったとのエピソードも
NEWSポストセブン
イセ食品グループ創業者で元会長の伊勢彦信氏
《小室圭さんに私の裁判弁護を依頼します》眞子さんの“後見人”イセ食品元会長が告白、夫妻のアパートで食事した際に気になった「夫としての資質」
週刊ポスト
ブラジルの元バスケットボール選手が殺人未遂の疑いで逮捕された(SNSより、左は削除済み)
《35秒で61回殴打》ブラジル・元プロバスケ選手がエレベーターで恋人女性を絶え間なく殴り続け、顔面変形の大ケガを負わせる【防犯カメラが捉えた一部始終】
NEWSポストセブン
連続強盗の指示役とみられる今村磨人(左)、藤田聖也(右)両容疑者。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)
《ルフィ事件》「腕を切り落とせ」恐怖の制裁証言も…「藤田は今村のビジネスを全部奪おうとしていた」「小島は組織のナンバー2だった」指示役らの裁判での“攻防戦”
NEWSポストセブン
モンゴルを公式訪問された天皇皇后両陛下(2025年7月12日、撮影/横田紋子)
《麗しのロイヤルブルー》雅子さま、ファッションで示した現地への“敬意” 専門家が絶賛「ロイヤルファミリーとしての矜持を感じた」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ツアーに本格復帰しているものの…(左から小林夢果、川崎春花、阿部未悠/時事通信フォト)
《トリプルボギー不倫》川崎春花、小林夢果、阿部未悠のプロ3人にゴルフの成績で “明暗” 「禊を済ませた川崎が苦戦しているのに…」の声も
週刊ポスト
三原じゅん子氏に浮上した暴力団関係者との交遊疑惑(写真/共同通信社)
《党内からも退陣要求噴出》窮地の石破首相が恐れる閣僚スキャンダル 三原じゅん子・こども政策担当相に暴力団関係者との“交遊疑惑”発覚
週刊ポスト
山本アナは2016年にTBSに入局。現在は『報道特集』のメインキャスターを務める(TBSホームページより)
【「報道特集」での発言を直撃取材】TBS山本恵里伽アナが見せた“異変” 記者の間では「神対応の人」と話題
NEWSポストセブン