工藤:厨房で下ごしらえしたものを岡持に入れて車で吹上御所へ持って行く。そして御所内の厨房で最後の仕上げと盛り付けをして、供進所(配膳室)にセットする。僕たちの仕事はそこまでで、料理を両陛下の待つ食堂に運ぶのは女官の役割です。
谷部:陛下から直接、料理の感想をお聞かせいただくことはありませんので、お食事中の会話に聞き耳を立てるしかない。供進所で待つ時間は緊張しました。そこから、お魚なら鰯、鰺、鯖などの青魚や、鰻がお好きだとわかってくるのです。
女官が厨房へやって来て「おいしかった」と伝えてくれることもよくありました。陛下のお心遣いだと思いますが、嬉しかったですね。
工藤:自分が担当したときに、(女官から)「このメニューはどなたが作ったのですか?」と聞かれると“やった!”と思いましたね。
谷部:陛下は麺類も好まれ、晦日(月末日)は決まって蕎麦でした。
初めて私が手打ちしたお蕎麦をお出ししたときに女官経由で「今日のお蕎麦はどこのお蕎麦ですか」というお尋ねがあった。「大膳の蕎麦です」と胸を張ってお答えしたのをいまでも鮮明に覚えています。それ以来、私が蕎麦を打つことが多くなりましたね。
●谷部金次郎(元宮内庁大膳課厨司)
埼玉県出身。日本銀行霞町分館で料理人の修業をした後、1964年から26年間、宮内庁管理部大膳課第一係(和食担当)。
●工藤極(元宮内庁大膳課厨司)
東京都出身。フレンチレストラン「代官山 小川軒」での修業を経て、1974年から5年間、宮内庁管理部大膳課第二係(洋食担当)。現在は、東京・江古田駅近くのフレンチビストロ『サンジャック』のオーナー・シェフ。
※週刊ポスト2014年12月26日号