テレビドラマというのは毎週放送されるので、観ている方たちが劇の中に入り込んできて、テレビの世界がご近所さんのように思えてくる。両隣に誰が住んでいるか知らなくても、テレビの中の家族構成は知っているようになるわけですから。
それを演じるのは難しい。リアルに演じようとすると、どんどん役から離れて自分自身になってしまう。ですから、その境目を作るのが大変でした。時代劇でしたら、鬘を付けてメイキャップしていただいているうちに段々とその気になって役にも入りやすいんですが、現代物、特にホームドラマの場合はそうはいきませんからね。
結局、『この役のセリフは自分が普段しゃべっているのとは違う言葉なんだ』と認識しないと、まずダメです。セリフが言いにくいから変えたりとか、自分なりの言い回しにしたりすると、ますます混乱してくるんです。
ですから、大事なのは普段の自分とは違うところを見つけていくことです。『自分だったらこんなことしない』ということをあえてやる。それをリアルじゃないからと抗議する役者さんもいます。『ここでこんなことを言うのはおかしいでしょう』と。でも、そうじゃないんです。僕は『この役は、そういうことをやる人間なんだ』と思うようにしています」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)、『時代劇ベスト100』(光文社新書)ほか。責任編集をつとめた文藝別冊『五社英雄』(河出書房新社)も発売中。
※週刊ポスト2015年2月20日号