スポーツ

山口香氏「トップアスリートは日本を活性化する社会的資源」

JOC理事を務める山口香氏

 2020年東京五輪・パラリンピックにむけての新国立競技場建設問題にエンブレム問題。いずれも白紙撤回という異常事態が続く。これまで上から目線で「ホントにあの国に開催できるの?」「今頃慌てて工事しちゃって…間に合うの?」なんて、開催国の準備遅れを心配してきた「先進国・日本」に、ブーメランが返ってきてしまった。

 この混乱、どこから生まれてきているのか? そもそも、オリンピック開催とは誰のための、何のための取り組みなのか? 社会にとってスポーツとは、いったいどんな意義を持つ? 多額の税金を使って行う意味が、経済活性化以外にはたしてあるのか…?

 と、誰もが問い直し始めたこの時期、この問題を考える材料が詰まった本が世に出た。

『残念なメダリスト チャンピオンに学ぶ人生勝利学・失敗学』(中公新書ラクレ)。著者は「女三四郎」こと元柔道女子世界チャンピオン・ソウルオリンピック銅メダリスト、日本オリンピック委員会(JOC)理事の山口香氏。私自身、本作りに参加した一人として、山口氏に著作を通して訴えたいことを聞いた。(取材・文/山下柚実=作家・五感生活研究所代表)

――山口さんは「東京オリンピックの競技大会組織委員長にスポーツ界から人材を出すことができなかった点を反省すべき」とこの本の中で語っていますが。

山口:日本国民みんなが「ああ、あの人なら」とイメージできるようなリーダーを、スポーツ界から出すことができなかったわけですから、反省すべき点は多いと思います。

 東京五輪そのものについても、どんな大会にしたいのか、というコンセプトが具体的に描けていない。組織委員長には森元首相が就き、重鎮ではあるけれども、それが故に周りが忖度しすぎてオープンな議論が見えてきません。現場の人がそれぞれ頑張っているのは当然ですが、チームとしては機能しておらず、責任の所在がはっきりしません。

 もし、スポーツというものが大きな意味で「人を育てる」ための取り組みだとすれば、国をあげての大イベントの舞台に、その成果としてリーダーとなる人材を輩出できなかった事実をスポーツ界は受け止め、これからの課題とすべきだと思います。

――オリンピックの運営責任者を元スポーツ選手が担うことは重責すぎる、という意見も一部にありますが?

山口:2012年のロンドンオリンピックを振り返ってみてください。組織委員会会長に元陸上金メダリストのセバスチャン・コー氏が就任し、「次世代に息吹を」とスローガンを掲げました。日本ではあまり報道されませんでしたが、環境に配慮し温室効果ガスの総排出量を計測し、地域再生の視点も盛り込み、オリンピック用の施設や敷地についても後々までその価値が持続し活用できるような細かい配慮を重ねたのです。

 その意味で、ロンドン五輪は元メダリストによる優れたリーダーシップが発揮され、独自性をもった大会として成功しました。彼の演説にはスポーツの力を感じることができましたし、だからこそ多くの人が賛同したのだと思います。

――組織のゴタゴタということでいえば、山口さんの所属する柔道界も体罰・暴力が社会問題化し、全日本柔道連盟という組織のあり方が厳しく問われましたね。

山口:言ってみれば、あの全日本柔道連盟のゴタゴタは、一足先に露呈した事例であって、今の五輪組織委員会をめぐる事態と問題の構図は似ている、と思います。

 柔道の場合、全柔連という組織に第三者委員会の調査が入り、女性理事の登用、暴力根絶といった改革が提言されました。詳細は本書に記しましたが新体制になると女性理事が一気に4名に増え、選手の活躍という意味でも良い変化が生まれてきています。例えば先月カザフスタンで開催された世界柔道では17個のメダルをとることができた。柔道は苦しい自己改革を通じながら、何とか再生の第一歩を踏み出しつつあります。

 つまり、「悪習や因習は見ぬふりをせずに変えなければならない」ということ。そして、「改革には必ず苦しみがともなう」ということです。

関連キーワード

関連記事

トピックス

人気シンガーソングライターの優里(優里の公式HPより)
《音にクレームが》歌手・優里に“ご近所トラブル”「リフォーム後に騒音が…」本人が直撃に語った真相「音を気にかけてはいるんですけど」
NEWSポストセブン
キャンパスライフをスタートされた悠仁さま
《5000字超えの意見書が…》悠仁さまが通う筑波大で警備強化、出入り口封鎖も 一般学生からは「厳しすぎて不便」との声
週刊ポスト
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《あなたとの旅はエキサイティングだった》戦力外の前田健太投手、元女性アナの年上妻と別居生活 すでに帰国の「惜別SNS英文」の意味深
NEWSポストセブン
1992年にデビューし、アイドルグループ「みるく」のメンバーとして活躍したそめやゆきこさん
《熱湯風呂に9回入湯》元アイドル・そめやゆきこ「初海外の現地でセクシー写真集を撮ると言われて…」両親に勘当され抱え続けた“トラウマ”の過去
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:
【激太りの近況】水原一平氏が収監延期で滞在続ける「家賃2400ドル新居」での“優雅な生活”「テスラに乗り、2匹の愛犬とともに」
NEWSポストセブン
折田楓氏(本人のinstagramより)
「身内にゆるいねアンタら、大変なことになるよ!」 斎藤元彦兵庫県知事と「merchu」折田楓社長の“関係”が県議会委員会で物議《県知事らによる“企業表彰”を受賞》
NEWSポストセブン
笑顔に隠されたムキムキ女将の知られざる過去とは…
《老舗かまぼこ屋のムキムキ女将》「銭湯ではタオルで身体を隠しちゃう」一心不乱に突き進む“筋肉道”の苦悩と葛藤、1度だけ号泣した過酷減量
NEWSポストセブン
横山剣(右)と岩崎宏美の「昭和歌謡イイネ!」対談
【横山剣「昭和歌謡イイネ!」対談】岩崎宏美が語る『スター誕生!』秘話 毎週500人が参加したオーディション、トレードマークの「おかっぱ」を生んだディレクターの“暴言”
週刊ポスト
“ボディビルダー”というもう一つの顔を持つ
《かまぼこ屋の若女将がエプロン脱いだらムキムキ》体重24キロ増減、“筋肉美”を求めて1年でボディビル大会入賞「きっかけは夫の一声でした」
NEWSポストセブン
母・佳代さんのエッセイ本を絶賛した小室圭さん
小室圭さん “トランプショック”による多忙で「眞子さんとの日本帰国」はどうなる? 最愛の母・佳代さんと会うチャンスが…
NEWSポストセブン
春の雅楽演奏会を鑑賞された愛子さま(2025年4月27日、撮影/JMPA)
《雅楽演奏会をご鑑賞》愛子さま、春の訪れを感じさせる装い 母・雅子さまと同じ「光沢×ピンク」コーデ
NEWSポストセブン
自宅で
中山美穂はなぜ「月9」で大記録を打ち立てることができたのか 最高視聴率25%、オリコン30万枚以上を3回達成した「唯一の女優」
NEWSポストセブン