また、家族間の意見が食い違うこともある。
91歳のAさんは脳梗塞で倒れた後、「入院したくない」という本人の希望もあって老人ホームで暮らしていた。食べられなくなった食事も介護職員の援助で少しずつ戻っていたが、誤嚥(食べ物などが誤って喉頭と気管に入ってしまうこと)をきっかけに状態が悪化した。
Aさんにずっと付き添っていた長女らは「最後までこの施設で過ごさせてあげたい」と望んだが、仕事の都合で遠方に住む長男が、病状の悪化を受けて実家に戻ると状況が一変した。それまで一切、姿を見せなかった長男が「何もせずに死なせられない」と主張し、Aさんを病院に入院させて延命治療をさせたのだ。石飛医師が語る。
「その後、入院先でAさんは亡くなりました。親の死という特別な場面では、家族の間でも考えが食い違うのが現実です。本当は大往生のはずなのに、家族は“何もしないでそのまま逝かせるのは我慢できない”と思いがちです」
身内の死を受けとめる家族が複雑な思いを抱える一方で、高齢者は「あぁ、やっと死ねる」と考える人が少なくないという。
「人生、やることはやった」という充足感から自ら老衰死を求めるのだ。
※週刊ポスト2015年10月30日号