ライフ

異例のヒット本『京都ぎらい』 多くの関西人が溜飲を下げる

〈千年の古都のいやらしさ、ぜんぶ書く〉──挑発的な帯が目を惹く『京都ぎらい』(朝日新書)が大きな話題を呼んでいる。発売約1か月で6刷の増刷を重ね、関西圏を中心に異例の売れ行きを見せているのだ。

「よくぞ書いてくれた」(大阪府民)など、多くの関西人が溜飲を下げたという同書の著者は、日本文化などを専門とする国際日本文化研究センター教授の井上章一氏。京都市出身で、現在は隣接する宇治市に住む「生粋の京都人」による郷土愛に満ちた新・京都論かと思いきや、そうではない。井上氏が話す。

「京都市の嵯峨で育った私は自分のことを『京都人』だと思っていません。嵯峨は行政上、京都市右京区に編入されていますが、かつては京都府愛宕郡に属していた。洛中の人たちからは京都とみなされないのです。京都府民で自分のことを“京都出身だ”と屈託なく言えるのは洛中の人たちだけです」

 洛中とは現在の上京区、中京区、下京区を中心としたエリアを指すという。「碁盤の目」に例えられる京都市街地の中でも、室町時代以来の都市部として栄えた地域だ。同じ京都市でもそれ以外は「洛外=田舎者」扱いされる空気があるという。

 同書の指摘通り、平安時代以来の伝統が息づく「千年の古都」の内側には意外にも“いけず(底意地の悪い)”な素顔が満載なのだ。

 今年3月、東京~金沢(石川県)間を繋ぐ北陸新幹線が開通した。日本中が沸く中、唯一関心を示さなかったのが京都人だったという。

「“本家本元”に住んでる私たちが、“小京都”と呼ばれる金沢に行って、今さら何を見るといわはるんです? 周囲でも金沢に行ったという人は見たことあらしません」(60代・女性京都人)

 そもそも京都人は新幹線に文句があるという。

「なんで東京へ行くのが“上り列車”と言うのかわからへん。私らは皆、“下りを使う”って言うてますわ」(同前)

 その意識の根底にあるのが、東京の皇居はあくまで「行在所(あんざいしょ・一時的な宿泊所)」であるという考え方だ。

「冗談めかしてですが、『天皇家はほんの百数十年間、東京に立ち寄っているだけで、都はまだ京都にある。遷都の詔勅(しょうちょく・都を東京にあらためる詔)はまだ出したはりませんから』と話す京都人もいます」(井上氏)

 自分たちこそ「正統」という思いは、時に排他的な言動を伴う。神奈川県横浜市の物販系会社の営業マンが京都市内の取引先を訪れた時のことだ。初めて名刺を交わす担当者にこう言われたという。

「開口一番、“いや~、えらい地方から来はったんですね”とヤラれました(笑い)。横浜のほうが京都より都会だと思うが、相手は“東京、大阪はギリギリ同格。横浜や名古屋、福岡は地方”との感覚でした」

※週刊ポスト2015年11月20日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
“進次郎劇場”で自民党への逆風は止まったか
《進次郎劇場で支持率反転》自民党内に高まる「衆参ダブル選挙をやれば勝てる」の声 自民党の参院選情勢調査では与党で61議席、過半数を12議席上回る予測
週刊ポスト
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
衆院広島5区の支部長に選出された今井健仁氏にトラブル(ホームページより)
【スクープ】自民広島5区新候補、東大卒弁護士が「イカサマM&A事件」で8000万円賠償を命じられていた
週刊ポスト
9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談【第24回】現在70歳。自分は、人に何かを与えられる存在だったのか…これから私にできることはありますか?
週刊ポスト