エンジンは一発で始動した。E30型は当初から電子燃料噴射式。オーナー曰く、「始動に手間取ることはないよ。近所の買い物にも使ってるしね」。
ATセレクトレバーをDに入れて発進。ATレバーは可能な限りDのまま動かさないことがコツだ。信号待ちのたびにN(ニュートラル)に入れたりするとすぐに壊れる。できれば手動でシフトダウンするのも避けたい。この時代のBMWのATには、特に繊細な心遣いが必要である。
走り出してしまえば、さすが325i、トルクがあって実にスムーズに走る。もはや速い部類には入らないが、周囲のクルマに取り残されるなんてことはまるでない。30年前のクルマとは思えない乗りやすさだ。
なにより素晴らしかったのは、その風情である。BMWのSOHC・直列6気筒の回転フィールは、まさに絹のよう。3シリーズの6気筒エンジンは、この次のE36型からすべてDOHCになったが、今となっては古典的なSOHCストレート6の感触に、かえって涙が出る思いだった。
これまでに故障でエンコしたことは2回あるという。燃料ポンプの寿命が尽きたのと、電気系(リレー)が原因で、ともに燃料がエンジンに来なくなった。
「純正部品はすごく高い。でもアメリカに愛好者が多くて、あっちであらゆる社外部品が作られてるから、それをインターネットで注文するんだ。燃料ポンプで1万円くらいだったよ」(オーナー)
古いクルマだけに、ある程度の故障は覚悟する必要があるが、死ぬ前になんとか購入して、あの頃の思いを果たそうではないか! これで美女と温泉に繰り込めば、復讐は完璧に成就する。
※週刊ポスト2016年2月5日号