かつて、レスリングの世界でモンゴルは強豪国のひとつに数えられていた。横綱白鵬の父、ジグジドゥ・ムンフバトがフリースタイルで銀メダルを獲得した1968年のメキシコ五輪以来、4大会連続で五輪の表彰台にあがっている。ところが、近年はすっかりメダルから縁遠くなり、2012年ロンドン五輪で女子63㎏級バトチェチェグ・ソロンゾンボルドが銅メダルを手にするまで待たねばならなかった。
ソロンゾンボルドは、昨年の五輪予選を兼ねたラスベガスでの世界選手権決勝で日本の川井梨紗子をフォールして優勝している。モンゴル悲願の金メダルをとの声も強い。
上り調子のモンゴル女子レスリングの活躍に朝青龍が思い入れたっぷりに喜びを爆発させているのには、わけがある。ちょうど大相撲引退のころからバックアップしてきた我が子の成長を見守るような気持ちでおり、さらにリオ五輪でメダル獲得の野望を持っているからだ。
2010年9月、断髪式を直前に控えた朝青龍は、モスクワでのレスリング世界選手権会場に姿を現した。そのとき、モンゴル女子で初めての世界チャンピオンが誕生した。引退後はモンゴルレスリング協会の名誉会長として選手強化のバックアップに関わり、2011年には世界選手権の順位の合計によって決まる国別順位でモンゴル女子は3位に入賞した。表彰式にはモンゴルを代表したみずから表彰台にのぼり、大きなカップを受け取って「まるで賜杯みたいだね」と無邪気に喜んだ。
2013年に名誉会長から会長につくと、その前年から開催しているフリースタイルと女子の国際大会「モンゴル・オープン」やアジア・カデット選手権、アジア・ジュニア選手権、さらに五輪世界予選第1戦の誘致にも成功している。朝青龍ことドルゴスレーン・ダグワドルジ会長の剛腕ぶりは目覚ましいが、モンゴル国内には反発する勢力も根強い。
「昨年の世界選手権会場に、彼は現れませんでした。大会前、UWWにモンゴルのレスリング関係者から国際大会開催時に巨額な使途不明金があると告発文書が届き、その釈明を求められていたのですが、何の回答もしないままだったからです。結局、あの告発がその後、どのように処理されたのかはわかりません。ややこしい事情があっても、今回のように大喜びしてみせるのは彼らしいですけどね(笑)」(スポーツ紙レスリング担当記者)
プレブドルジが伊調に勝った喜びツイートのひとつで、朝青龍は「今日横綱に昇進した記念日、モンゴルレスリング協会会長になり。あの鉄人に内の若い女子レスラーが10-0勝ち何かの力が感じました」(原文ママ)とつぶやいている。ひょっとしたら、これからトップに昇ろうとするモンゴル女子レスリングに、自身の姿を重ねているのかもしれない。