《私は一回に一~二個しか採取できない。だから手術しては次の手術費用を貯め、また手術してはお金を貯める。病院は三ヶ所回り、合わせて十数回は採卵手術をしています》(『週刊文春Woman 2016新春スペシャル限定版』)

 総費用は数百万円を超えていると推測される。さらに彼女は、通院時間を確保するためにフルタイムの勤務をやめ、勤務先に近いクリニックを探すなど、生活の上でも重荷を背負った。

 毎日新聞が伝えたところによると(2月2日付)、A子さんは父親を早くに亡くし、実家の家計を支えるために働きづめの毎日だった。しかも家族の関係は良好とはいえず、温かい家庭に強く憧れていた。そんな彼女は40才が近づくにつれて、“このままでは子供ができない”と思い悩み、卵子凍結を求める「卵活」を決断したのだった。

 その後、42才で結婚したA子さんは夫の協力を得て、41才の時に摂取した卵子凍結を用いた体外受精に臨み、数度目のトライで妊娠に成功した。そして昨夏、体重2534gの女児を出産した。

 自身も不妊に悩んで体外受精を何度も試み、44才で初めて出産したという船曳医師が振り返る。

「A子さんの妊娠がわかって私たちは歓喜しましたが、彼女は“高齢出産の女性の場合はまだ何があるかわからない”と慎重でした。だからこそ、実際に出産したときは心から喜んでおられたと思います」

 体外受精を幾度も失敗したA子さんがついに成功したのは、やはり「卵子の老化」がポイントであると船曳医師は指摘する。

「妊娠率は32才くらいから減り始め、37才くらいから年を追うごとに急減します。40才を超えるとたった1才の違いでも卵子の妊娠する能力がかなり衰える。A子さんが少しでも若い卵子を使ったことは、今回の成功要因の1つでしょう」

 現在、同院では229人の卵子を凍結保存している。

「いつかは子供がほしいけど仕事や親の介護が忙しいという女性、パートナーの同意がなく、すぐには産めないという女性…卵子凍結を選択したのはそうしたかたばかり。実際に出産するまでに卵子が刻一刻と老化していくため、少しでも将来の妊娠の可能性を高く保持しておきたいというかたが多いですね」(船曳医師)

 これまで同院では凍結卵子を30代後半以降の10人以上が使用し、実際に出産に至ったのはA子さんだけだ。卵子を凍結した人の年齢がもう少し若ければ可能性は高いのだという。

※女性セブン2016年3月3日号

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