◆ポンド危機の時と状況が酷似

 今度の相手はこれまでのどの相手よりも強大な、世界第二位の経済大国・中国。果たしてソロス氏に勝ち目はあるのか。外為オンラインのシニアアナリスト・佐藤正和氏はソロス氏の手腕をこう評価する。

「彼の最も優れている点は、投資家の心理を読むことに長けているところです。相場を動かしているのは人だからこそ、市場参加者の心理を的確に読み、相場の転換点を探るのがソロス氏の基本的な投資手法といわれています。彼はそのうえ綿密に市場を分析し、本能と直感で相場を張る」

 今回の件でいえば、世界中の投資家が中国経済に疑問を抱き、将来の投資対象として不安を感じているであろうタイミングでソロス氏は動いた。

「ソロス氏は『成功のカギは市場が自らの勢いで混乱を始める時点を見抜くことだ』と語っています。トレンドの転換点を見抜くことにかけては天才といえるでしょう」(前出・佐藤氏)

 そして今の中国の為替市場は、ソロス氏がイングランド銀行に戦いを仕掛けた時の状況と酷似しているのだ。前出・安達氏の話。

「中国は経済大国といわれる国々のなかで、いまだに実質的な固定相場制をとっている唯一の存在です。しかしIMF(国際通貨基金)のSDR(※注)に加わった人民元はもはや国際通貨だと認識されている。にもかかわらず介入を続けて人民元を固定相場にしたままでは『国際通貨たりえない』と、世界中から非難を浴びることになる。中国政府の市場介入政策とマーケットの間に歪みが生じ始めているのです」

【※注/特別引出権のこと。世界共通の通貨単位で、その価値は4つの通貨(ドル、ユーロ、ポンド、円)の価値によって決まっており、2015年11月に元を加えた5つで構成することが決定した】

 国内の景気が減速していても、固定相場制を維持せざるをえない中央銀行―この構図は「ソロスvs.イングランド銀行」の時とまったく同じなのだ。

※週刊ポスト2016年3月4日号

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