しかし、首相が渡ろうとしている“橋”は、細いロープを歩く綱渡りだ。肝心のオバマ米大統領がロシアとの交渉に難色を示しており、安倍首相との電話会談(2月9日)でもわざわざ5月のロシア訪問を「時期尚早で自粛すべき」とクギを刺してきたからだ。それでも、安倍首相はオバマ氏の忠告を拒否し、外交的賭けに出ようとしている。国際ジャーナリストの内田忠男・名古屋外国語大学大学院客員教授が指摘する。
「米露の対立はシリア、パレスチナなど中東問題を複雑にし、IS(イスラム国)のテロという全世界にかかわる危機をより深刻にしている。それなのに、いま世界には外交手腕に長けたリーダーがいない。
オバマ氏は政権末期でレームダック、英国のキャメロン首相はEUの分裂危機で国内世論をまとめきれず、ドイツのメルケル首相は難民問題で突き上げられている。G7諸国の指導者の中で、米露の間を取り持ち、キリスト教とイスラム教の対立にもコミットできる立場にあるのは日本の安倍首相しかいない。
オバマ氏の説得は容易ではないが、米露和解の仲介に成功し、それをきっかけにシリア、パレスチナ問題の解決につながれば世界の安定に大きく貢献することになる」
安倍首相にすれば、看板のアベノミクスは行き詰まり、経済回復に妙手はない。外交的にも、北朝鮮との拉致交渉では北から「日本人拉致被害者の調査打ち切り」を通告されるなど失点続きだ。
それだけに「米露の和解」を自らの手で成し遂げることができれば、スキャンダルやこれまでの経済的・外交的失点を補ってあまりある成果を得られるという野心を膨らませているのだ。それは夏の「参院選」にもつながる。
「プーチンのサミット出席を実現させることができれば、安倍首相は世界のリーダーであることを参院選でアピールできるでしょう」(前出・名越氏)
※週刊ポスト2016年3月11日号