かつて外国の資本が投入され、「第二のドバイ」と言われたアルビルは、建設ラッシュの途中で、工事が中断されたままのビルが目立つありさまだ。吹きさらしの建設中のビルは、いまや、難民や避難民たちの仮の住処となっていた。
マルチシムーニ教会クリニックのような診療所は、そうした都市難民たちの命と健康を守る身近な拠点となった。
都市難民が抱える健康問題はさまざまだ。最も心配されるのは、大きなストレスと、糖質に偏りがちな食生活、運動不足などによって引き起こされる生活習慣病だ。ドクター・ハナの7歳の息子は、糖尿病を発症した。小児に多い遺伝性の糖尿病ではなく、ストレスや生活習慣で発病したようだ。
東日本大震災でも、南相馬市と相馬市で大規模な調査が行なわれ、糖尿病の発生率が6割増加していることがわかった。
イラクでの食糧配給は小麦や砂糖、油が多く、糖質偏重になりやすい。日本でも、緊急時の食糧支援にはおにぎりやパンなどが多い。緊急時だから栄養バランスなどは二の次になるのかもしれないが、今後は、偏った食生活と運動不足、ストレスが生活習慣病のリスクを上げることも視野に入れ、支援を考えていく必要がある。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『「イスラム国」よ』『死を受けとめる練習』。
※週刊ポスト2016年5月6・13日号