さらに北朝鮮の工作員が「イスラム国」(IS)の自称首都ラッカに出没しているという情報がインテリジェンス関係者の間で流れていることだ。北朝鮮は、地下秘密基地を造る土木能力に秀でているので、米軍の偵察衛星、無人飛行機やロシア軍の空爆から逃れる本格的な施設をISは必要としているのであろう。
北朝鮮は、過去にもシリアやリビアで地下秘密基地を造った実績がある。旧ソ連は、国際テロリスト・カルロス(終身刑が確定し、フランスで服役中)を支援したことがある。カルロスは、ソ連のルムンバ民族友好大学に留学したときにテロリストとしての訓練を受けたが、思想的に共産主義に共鳴したわけではない。カルロスの西側やOPEC(石油輸出国機構)に対するテロ攻撃が結果としてソ連の利益に役立つので利用したのだ。
ISと北朝鮮は、イデオロギーは異なるが、米国とその同盟国に対する敵対行動については、利益を共有している。北朝鮮の工作員が、ISのテロリストを偽装して、日本や韓国でテロ活動を行う危険に備えなくてはならない。
●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。『SAPIO』で半年間にわたって連載した社会学者・橋爪大三郎氏との対談「ふしぎなイスラム教」を大幅に加筆し『あぶない一神教』(小学館新書)と改題し、発売中。
※SAPIO2016年7月号