静かで交通量の少ない、より安全な施設に子供を通わせたい、と母親が望むのは当然だ。専門家も「保育の質」が下がることに対して懸念の声を上げている。関西大学人間健康学部教授の山縣文治さんは幼保一体の認定こども園そのものについては推進する立場だが、「幼児の数としては150人ぐらい、多くても200人ぐらいが適当ではないか」と市の計画に疑問を呈する。
「同じ年齢の子供たちが20人程度集まるというのが、子供たちが集団生活を学んで、成長するにはもっともいいとされています。また、施設の規模が大きいと、保育士がしっかり見ていないと、子供が目の届かないところに行ってしまうリスクが出てくる。
再編するなら、せめて現在使っている幼稚園や保育園の一部や、さらには廃校になった学校の校舎などを利用して3~4つぐらいの施設に分けるべきではないでしょうか」
阪南市はホームページで「保護者の就労形態にかかわらず、子供たちが同じ施設で教育と保育の機会を等しく得ることができます」と、こども園ならではの、コスト以外のメリットも強調している。
一方で、賛成派もいる。3才の子供を保育園に通わせている高田佳子さん(36才・仮名)だ。
「子供が安心して過ごせるよう、しっかり耐震化してある、津波の浸水想定区域外の施設に預けたいです」
ある幼稚園の近くに住む住民は「あまりこの地域じゃこういうことは言いにくいですが…」と声を潜めて語る。
「午前中から園庭で遊ぶ声がしたり、運動会があると大音量の音楽や子供たち、親御さんの大きな声まで聞こえてきたり。静かに暮らしたいなと思っていたんです。だから、今回、新しい施設に移ると聞いて正直、ほっとしました」
多くではないものの、賛成の声は確かにあった。市によると、反対派の署名の数は約1万3000。そのうち約半数は、阪南市の住民だ。先の住民が語ったように、賛成派はそうした声のなかで、声を上げにくい状況になっているのは事実だろう。
保育施設を巡る問題は全国あちこちで、さまざまな形で起きている。施設が不足すれば待機児童のような問題が起こるし、あっても保育の質が低いものであれば母親は安心して働けない。繰り返される反対運動への解決策が、幹線道路沿いの巨大施設になるとしたら、それはあまりに安易に走った、子供たちにとってはおぞましい明日というほかない。
※女性セブン2016年7月14日号