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ベルギー 精神病患者が安楽死を選べる国

◆「私は負け犬」

  2013年12月18日、安楽死当日普段と変わらぬ朝だった。ミアとクンはコーヒーを飲みながら、朝食をとった。午後3時になると、クンの母親、兄、妹2人がやって来る。家族写真を撮影したり、クンの過去の話を持ち出して笑ったり、ワインを飲んだりしながら、むしろ和気藹々とした時間を過ごした。ただし、末っ子の妹が、目に涙を浮かべながら現実的な話を持ち出すと、居間の中が静まり返った。

「考えが変わったなんてことはない?」

 兄を心配する妹の表情は真剣そのものであったが、クンはさらりと答えた。

「いや、それはないな」

 午後5時を回った頃、医師が到着した。医師は、クンが安楽死を望み続けているかどうか、最終チェックを行う。彼が落ち着き払って、「もちろんです、先生」と答えると、居間の奥にあるソファに横たわり、全員が彼を囲んだ。

 医師が注射を2本用意している間、クンは、携帯電話を取り出し、誰かにメッセージを書き込んだ。そして、注射が左腕に刺し込まれる前に、クンはミアの顔を見つめ、呟いた。

「もし、あの世があるのなら、君に居心地の良いスペースを取っておくよ。でも、急がなくていいから……」
「ありがとう、クン。じゃあ、あの世で会いましょう。愛しているわ」

 医師が、昏睡状態をもたらす注射をまず1本打ち、次には、心臓を停止させるとどめの1本を打ち込んだ。30秒かからないうちに、クンはミアの腕の中で、安らかな眠りに就いた。

 家族は、その後、すぐに立ち去った。肉親が死んだばかりだというのに、ミアには家族の反応が冷たく感じた。

「家族の関係はバラバラでした。ほとんど交流もなかった」

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