この選挙戦の最中に、「“九重親方が、北の湖理事長の追い落としを画策している”という情報が流されていた」と証言するのは、九重部屋と同じ高砂一門のある親方だ。
「実際はそんな画策なんてしていないのに、“ある人物”によってニセの情報が当時の北の湖理事長に吹き込まれたといわれています。その情報に危機感を持った理事長は、自身の出羽海一門を動かして友綱親方に票を回した」
ここで指摘されている“ある人物”とは相撲協会の元顧問・K氏を指す。このK氏は、現役力士のキャラを使ったパチンコの新台を製作するライセンス契約を巡って、2012年にメーカー関係者から裏金を受け取った人物で、その現場動画を本誌がスクープした(2014年1月24日号)。K氏と九重親方の間には、本誌スクープ以前から緊張関係があったという。
「九重親方が事業部長だった時に、国技館の大改修工事が計画され、親方は工事業者の選定を進めていた。この選定を巡って対立したのが、当時、北の湖理事長の“懐刀”と称されていたK氏だった。理事長を後ろ盾に協会の事務を一手に取り仕切っていたK氏のやり方を見て、“このままでは協会が食い物にされる”と危機感を募らせたのが九重親方でした」(同前)
そうした中で、前述のパチンコ裏金問題が浮上する。
「K氏はパチンコのライセンス契約の話を、九重親方に知られないように進めていたが、そこに裏金の話が発覚した。九重親方はこれをきっかけにK氏の責任を追及しようと動いたのです」(別の協会関係者)
ところが、北の湖体制下ではK氏が裏金を返したということをもって“お咎めなし”となったのである(メーカー関係者は返還を否定)。
「裏金問題にメスを入れようとした九重親方がそれに失敗し、逆に理事選でK氏側が北の湖理事長を動かして落選に追い込まれた格好です」(同前)
その後の、ナンバー2の事業部長からヒラの委員に降ろされる人事についても、「落ちた理事を役員待遇に残すかは理事長の判断。北の湖体制に刃向かったということで、“ヒラ”として徹底的に冷や飯を食わされたかたち」(相撲担当記者)とされている。
※週刊ポスト2016年8月19・26日号