その状況に異論を唱えたのが2007年末の大統領選で左派を破り(李明博大統領)、政権奪還した韓国の保守派だ。韓国籍に変更した朝鮮総連メンバーの中には、「北朝鮮より便利な韓国旅券」が目当ての人間が多い。

 だから韓国旅行を楽しむ一方で、朝鮮総連の訪朝代表団に名前を連ね機関紙上で北朝鮮への忠誠を誓う。これは韓国政府からすれば、北のスパイ取り締まりを定めた国家保安法に抵触する。国情院関係者が話す。

「法律論で言うなら、そういう人たちの旅券を取り上げることも出来るし、韓国の空港で拘束もできる」

 もっとも国家保安法はただでさえ「悪法」とされており、そんな強硬手段に出たら国際社会から何を言われるかわからない。そこで国情院は、渡航者個人に対する「電話警告」にとどめている。だが、それだけでも効果はテキメンのようだ。

「訪朝団メンバーに、手を挙げる人が減ってしまった」(朝鮮総連関係者)

 北朝鮮に背を向けて韓国籍取得に走り、それが原因で国情院に揺さぶられる朝鮮総連。こうした状況を、北朝鮮本国は無論、よく観察している。お前たちの忠誠心は、どこに向けられているのだ? 金正恩氏のそうした疑念を晴らすため、朝鮮総連はリスキーな抗議デモで本国への忠誠を誓ったのではないか。私はそう見ている。

※SAPIO2016年9月号

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