さらに昨年4月には厚労省が「原則として要介護度3以上でなければ特養に入所できない」との通達を出し、ただでさえ狭き門はさらに狭まった。
総務省「家計調査年報」(2015年)によれば60歳以上の高齢者(単身無職)の平均収入は毎月約11万5000円。月額約8万円の特養が順番待ちで入れないからといって、月額約20万円以上の民間の有料老人ホームは入居先として現実的ではない。
逆にいえば、手元に十分な資金があれば、選択肢は大きく広がるということでもある。
前出の「家計調査年報」の示す平均額で見ると、定年退職後は毎月3万円程度の貯蓄を取り崩す生活となる。そうした貯金を取り崩す生活が10年程度続いた後に要介護になるという前提で試算してみると、Yさんのように行き場に困る事態に陥らないためには、民間の有料老人ホームに入れる水準、つまり少なくとも1500万~2000万円の貯金が65歳時点で必要という結果になった。介護ジャーナリストの栗原道子氏が指摘する。
「持ち家に住んでいる人の場合、有料老人ホームに入るために、住み慣れた自宅を売る人も少なくありません。長年住んだ建物にほとんど価値がなく、土地にしか値段がつかないケースも多いですが、それでも不動産を持っていない人よりは恵まれています。老後の資金を捻出するために、皆さん苦心しています」
※週刊ポスト2016年9月9日号