「映画サークルで出会った人で、最初は友達でした。東京出身の彼は、男女ともに他人を『君(キミ)』って呼ぶんです。それが新鮮で、カッコよかった(笑)。ノリも合ったし、映画と絵の趣味も似てて、告白されて付き合うようになったんですが、その後もずっと私のことを「君」って呼ぶんですよ。1年たってもそれだから、『何で名前で呼んでくれないの?』って怒ったら、『女の子として見れないんだ』って。びっくりしました。1年付き合ってそれかよって」
一方で、妙に納得する自分もいたという。
「私自身、正直、友達といるほうがラクなんですよね。付き合うと、休日は会わなくちゃいけないとか、時間の制約も出てくるし、男友達と2人で遊びに行きづらくなる。大勢と自由にフラットな関係を結ぶほうが、私には向いてるんだと思う。二次元が好きなのもあるのかもしれません。その後に付き合った2人とは、自然消滅のような感じで終わりました。昔から結婚願望はないんです。これは母の影響もあるのかもしれません」
広島の山間部で生まれた奈々子は、父と専業主婦の母、兄と弟という5人家族。男兄弟の中で育ったせいか、女の子らしい外見とは裏腹に、性格は活発で勝気だった。そのせいか、物心ついた頃から母親との折り合いは良くなかったという。狭い田舎で専業主婦をする母親の話題と言えば、父親と姑の悪口ばかりだった。
「中学生になる頃かな。お母さんはそれで人生楽しいのかなって思って、言ってしまったんです。『離婚して自由に働いたら』って。そうしたら、見たこともない鬼の形相で怒られた。『結婚を何だと思ってるの!』って。『結婚はそういうものじゃないんだ!!』って。じゃあ、どういうものか全く分からなかったんですが、幸せそうにも見えない上に、続けなければいけないものなら、私はしなくていいやって悟ったんですよね。大人になって振り返れば、母にも、私には見せてない顔があったんだろうけど。
ただ、兄と弟は普通に結婚して、子供が二人ずついるんです。兄は実家で親たちと同居して仲良くやっているみたいだし。だから結局は、私の感受性や性格の問題なんでしょう。とにかく今は、絵の仕事と映画があり、趣味を共有できる友人がいれば十分です」
恋愛より友人、結婚より絵、三次元より二次元、それが奈々子だ。では、そういう自分を、冒頭で“淋しい”と言ったのはなぜなのか。